『バブル』

SF映画の『バブル』を観た。虚淵玄脚本でもともとみようとおもっていたのだが(Netflixにすぐ配信されていたし)、次から次へと酷評が各所で巻き起こっていてかなり期待値が下がった状態で見ることになった。

で、期待値が下がった状態で見た結果もあるかもしれないが、それなりにはおもしろかった。批判されていることの多くはそのちぐはぐな世界観、陳腐なストーリーなどが主で、批判されるのはまあまあそやろなあという感じの出来ではあるが、いうてみればそれだけのマイナスともいえる。

世界に謎の泡が降り注ぎ、重力のバランスが崩壊し、ライフラインも断たれ廃墟と化した東京で(おかしくなったのは東京だけなので他の地域は無事である)若者たちが食料や飲み物を賭けて5vs5(だったような気がするが忘れた)のパルクールバトル(基本的にはゴール地点の旗を先にとったほうが勝ちらしい)に興じている、意味不明な世界が物語の舞台である。

過去に暗い影を持つ主人公のヒビキ少年は凄まじいパルクールの腕を持つがコミュ障であまり人と関わろうとしない。そんな彼がとある事故をきっかけにろくに喋れもしない謎の美少女と出会い──とまあよくある「不思議な世界✗ボーイ・ミーツ・ガール」な物語で結末までだいたいそんな感じ。

なんでパルクールバトルが流行ってるのか理解不能だし、東京の崩壊で住処を失った子どもたちがそれをやって食料を奪い合っているのも意味不明なのだが、重力異常が発生した世界でパルクールをアニメで描きたかったことだけは間違いないのでそこに突っ込んでもしょうがない感がある。

カブトボーグやポケモンにたいしてなんでカブトボーグやポケモンで世界征服を狙っている悪の組織がいるの? と聞いてもしょうがないようなもんで、コロコロコミックみたいな子供へのおもちゃ販促のためのような世界観であり、突っ込むのもやぼな気がしてしまう。ただ、そのわりにバブルや重力のバランスの崩壊、謎の美少女の存在をSF的に理屈付けようとしているところがあり、そのへんの「コロコロコミック感」と「ある程度年齢層が上向けのSF感」、あと『君の名は。』的な青春ストーリー感がバランスが悪く全体的に噛み合っていないのはある。もう少し軸がぶれていなければな。

序盤のかったるさはキャラクターのあまりの魅力のなさ(小畑デザインのキャラクタも個人的には全く受け付けない)も相まって地獄のような時間だったが、中盤を過ぎてからの廃墟の東京を舞台にしたパルクールアニメーションの疾走感は素晴らしいものがあり、「世界設定は無茶苦茶だしいろいろ噛み合ってないけど元取れるわ」と思えるぐらいにはよかったな。

脚本もそう悪いもんでもない。重力異常が発生した東京は廃墟になってて(『天気の子』アフターみたいなかんじ。それはまあ新海監督が次作でやるんだろうけど)そこでボーイミーツガールを絡ませながらパルクールのアニメーションをやりたい!! という最初にあったであろうオーダーを考えるとこれ以上のものにはそうそうならんだろう感がある。

あと思いつきで触れておくと、「パルクール」はまだ良くても「5vs5のパルクールバトル」が流行しているというのだけはなんかなんとかならんかったのか感はある。5vs5だからチーム戦で、チーム戦ならではの役割や戦略などがありそうで、なんとかがんばって描こうとしている形跡こそ見えるものの、チーム戦ならではのおもしろさはあんまり感じなかったな。

中盤のこの「悪の組織」と行われたパルクールバトルもなぜこんなことをやっているのか意味不明すぎて(アニメーション自体はいいんだけど)、もう少し違う形でパルクールを取り入れられなかったのかと思ってしまった。

あと「廃墟となった東京」なんていかにも素晴らしいじゃん、と思って観始めたのだけど、全体的に背景にあんまり魅力を感じなかったな。いかにも廃墟ってこういう感じでしょ、みたいな特に意外性のない廃墟が連続するというか。このへんは好みの問題もあるだろうけど。

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