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BUTTER【読書感想】柚木麻子

これは明らかに木嶋佳苗事件がモチーフになっていると感じる
小説なんだけど
実際にあった事件でもって近年だからご本人も事件関係者もみんな現在進行形で生きているからなんて危ない橋をお行きになるんだろうと思った。

けど

あくまでモチーフで、題材で
材料の一部。と言うか本来伝えたかったことにちょうどよくこの事件が当てはまったというような気がする。
映画「JOKER」の伝えたいことのためにバットマンと言うビッグタイトルの
人気悪役を持ってきた、みたいな。

登場人物は3人の女性を中心に話が展開されていく。
主な主人公は週刊誌の女性記者、町田里佳。
長身に細身の体、記者という仕事柄のせいか極力女性らしさを省いたような外見になっている。
イメージ的にはさっぱりした顔立ちの宝塚男役みたいな感じかな。
そして木嶋佳苗にあたるのがカジマナこと梶井真奈子。
アナグラム的な文字の配置になっているのが潔いというか、隠すつもり自体無いのかみたいな。
まぁ文末の参考文献で本のタイトルに思いっきり木嶋佳苗の名前出ちゃってるからね。
でも若干キャラクター性がついてる。ここら辺は著者の実力なのかしら。
自己肯定感とマイワールド展開術にかけてはなかなか魔力が強い。
こういう人じゃないかなって言う人物、現実でもちょくちょく出会う。
フィクション作家とかに向いてると思う。
好き嫌いは別としてこのキャラクター性を持った人物がいると話が面白い。

そして影の、というか話を大きくするというかアジテーター気質というか
里佳の親友 伶子。
彼女の存在が話をややこしい方向に進ませている。
んだけど、そのおかげで基本的にお人好しで洗脳されやすいタイプの里佳が助かっている場面もある。
とかく華奢で処女性特有の潔癖感ある可愛い女性の外見に
火薬庫みたいな地雷満点の特攻気質を秘めている怖い兵器です。
この3人の中で誰が本当に人を殺すかと考えると いやぁ まぁ
全員かな。と言いたくなるような登場人物たちです。

一人一人情熱が。パトスが。すげえ。
食欲や探求欲や好奇心や それゆえ周りが振り回されて
傷つく人続出ですよ!!

食べ物に対する描写がねえ。
執拗で執拗で。バターに例えられた女特有の感情の濃厚さときたら。
でーもしっくりくる。

THIS IS 女。的なカジマナや伶子 と さっぱりしていて基本お人好しで洗脳されやすいあんまり女っぽくない里佳の対比が。

おもしろいです。
人間模様がキャラクターがすごく立っているので現実っぽく人の揺らぎがあって話の2転3転を楽しめます。
最後は綺麗にまとまりすぎかなー とか
里佳さん本当にお人好しですね。とか

丸く収まり、全員がおともだちだね♪みたいな終わり方です。
カロリーを消費して戻るべき場所に戻っただけの気もする終わり方ですが
私は読んで何かを得た気がします。

最初はセルフネグレクトに対する女性からの冷ややかな皮肉かと思った。
でもセルフネグレクトは男性だけの問題じゃなくて
だから逆に誰であってもどんな状況でも自分にとって栄養を取れる手段や
清潔で心が荒まないような工夫を凝らした住処作りは

とても価値があることなんだよって。

時代が求めている形になってない何かを
掴むヒントをもらえるような小説です。
イヤミスは嫌な気分で終わるだけじゃなくて、一種のデトックスのための
ヒルみたいな存在なんじゃないかしら。

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