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私はつんぼである。

私はつんぼである。

幼いころから耳が不自由だった。
母からは何度も申し訳なさそうな顔を向けられた。

だが私はその分、目が良かった。
何度も申し訳なさそうな顔をする母の顔がよく見え、
幼き私はそれで愛情というものを知った。

そんな私は人体に興味を持ち、
医学を学ぶため、大学へ行った。

大学では様々なことを知った。
医学や人体に関することはもちろん、
周りからしてみると田舎出身の私がえらく可愛いようで
酒やタバコ、麻雀なんかを先輩方から教わり、知った。

そんな私はある時、障害科学の先駆している、
ヨーロッパのとある国の大学へ学びに行くことを勧められた。

幸い学業を真面目にこなしており評価が高かったため、
費用免除で渡航することができた。

初めての海外は刺激的なんて形容はてんで甘いように思えて
何よりたまらないくらいの美女であふれていた。

そんな美女たちに気取られそうになったが、
本来の目的である勉学に意識を移し、死ぬ気で頑張ろうと決心した。
その決心通り、男は拙い英語ながらも、障害科学について一生懸命に学んだ。

欧州での生活に慣れてきたころ男は、
女性からよく見られていることに気づく。

見られているなら、アジア人という理由で納得がいくが、
男を見る女のほとんどが指でサインしてくるのだ。
日本では、魅力的な顔ではなかったという自覚がある男だが、
欧州ではそうではないんだろうか、という期待を抱いてしまう。

男は現地でできた大学の友人にこの指のサインの意味を聞くと
それはピースサインというもので友好的なしぐさだ、ということを教えてくれた。
男は歓喜した。
男は耳が不自由なことで女性と関係を持つことに引け目を感じており、女性に対してアプローチをしたことが無かった。
そんな男がはるか遠くの国で逆にアプローチを受けることになるとは。

その帰り道、またもや女性からあのサインを受けた。
男はちょうど喫茶店でコーヒーを啜り、タバコを嗜んでいたところだった。

男はその女の横へ座り、
自分がつんぼだということ。
そして男なりの格好つけの口説き文句を書いて見せた。
そうすると女は男が書いた紙を受け取りこう書いた。
「Give me a cigarette and go away‼ Yellow monkey‼」









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