見出し画像

苦い思い出 第二話 スリー入り

「らっさいませー」

癖の強い出迎えだった。
タバコを吸いながら、明らかに栄養が足りてなさそうなガリガリのメンバーが声をかけてきた。
身長は180くらいだろうか。
トライブ柄の白シャツに緑のエプロン。
胸にはクロムハーツだろうか?
やけにでかい十字架が輝いていた。
お世辞にも似合ってるとは言い難い。
10年後にはデスノートの死神のモデルにされててもおかしくない出立ちだった。

「レートはどちらで?」

「早いほうで」

財布には一万とちょっと入っていた。
フリー雀荘では、客の数によって店員が卓に入って麻雀を打つ。
3人しか客がいなかったら1人店員が入る。

「いま、お待ちの方が1人なので、スリー入りでよろしいでしょうか。」
「いいですよ。」
「シンヤがタバコ買いに行っちゃったから、ちょっと待っててください。」

マニュアル以外の部分は、微妙な言葉遣いだったがそれがある意味のらしさだ。

店内は盛況だった。
マルで7卓は立っているだろうか。
それにしても、自動ドアが空いただけで店内の客はみんな入り口に注目するんだ?
コイツらみんな警察に追われているとかそんなんなんか?
そもそも賭け麻雀してるんだから皆んな後ろめたいのかもしらん。

やがて緑エプロンが3人揃った。
デスノート以外は買い出しに行っていたシンヤ。
名札にカタカナで名前が書いてあったから名前がわかった。
もう1人はシンメトリーカットのホスト風。
俺を交えない会話が卓内で飛び交う。
「シンヤ、エリちゃん食べたろ。」
「家で麻雀教えてやるって言ったらホイホイ着いてきたからな。お前らもカンチャンはズッポシ入れたくなるだろ。」
「お前のせいで、また女メンバー減っただろ。」
「エリは、マジ良かった。いい声で鳴くんだよ。またやりてえ!」
「シンヤの件でエリちゃんは泣いてエリアマネージャーに辞めたいって言ったらしいぞ。」
「ただでさえエリが辞めたなら、人手足りねーからクビにならんだろ。」
「だよなーw」
そんな耳触りな会話をしながらもコイツらは、横移動とツモを繰り返していった。
オーラスで俺は13000持ちのラスで子だった。
エリちゃんの生き霊が俺に乗り移ったかのようなソーズのチンイツ手が入った。
ドラ⑥
2234466778899⑥
メンチン二盃口のダマで倍満だった。

シンヤは親リーチ
デスノートはオリ
シンメトリーもオリ


                    最終系はリーチ。


俺の心の真ん中にあるポリシー。
エリちゃんの生き霊も頷いていた。
俺は当時流行りのアトミックリーチをかけた。
左手で河を抑えて右手を振りかぶってドラの⑥を叩きつけた。

親のシンヤは右側の口角だけをあげて文字どおり嘲笑いながら、
「強打はご遠慮ください。」
と俺の顔を覗き込んで言った。
そしてくわえタバコを、灰皿に置いた。
最後に俺の顔を覗き込んで、
「ロン」
シンヤの口から出るタバコの煙が俺の目にかかって染みた。
そしてシンヤは王牌に手を伸ばして裏ドラ表示牌を器用にめくった。
⑤だった。
「18000からの裏3で24000の4枚」

俺は点棒とチップを震える手でシンヤの前に置いた。
シンヤは頷きながら点棒をしまってお決まりのコールをした。
「ラストーご優勝はシンヤ様」
俺の中で今まで感じたことのない強い殺意に近い狂気が沸いた。
震える手で不自然なくらい丁寧に千円札を卓に置いた。
すると、投げるようにしてお釣りが返ってきた。

シンヤのタバコがほとんど灰になり、白い副流煙をあげなくなった。
コイツの顔が歪むのを見たい。
禍々しい狂気と共に、脳内からとてつもない量のアドレナリンが分泌されていくのを感じた。


続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?