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苦い思い出 第四話 来店

ストレートの薄いブルージーンズに白いポロシャツ、足元は不自然なユーチップの革靴。
お腹の周りはパツンパツンで胸の周りに皺が寄っていて、オニギリ体型の典型。
げじげじ眉毛にお目々はパッチリ。
猿岩石の有吉が老人になったような妖怪が来店した。

「らっさい。ちょうど始まるところ、ご案内できます。」
おしぼりを持ったシンメトリーが来店対応。
「おう!イクか。」
妖怪はシンメトリーの股間を触って笑った。
「あ、触った!お触りは料金発生しますよー」
妖怪はシワシワの目尻をさげてニターっと微笑んだ。
シンヤ、デスノートは席を立って妖怪に席を選ばせる。
「お、ニイチャン新規か?」
臭い息とともに泡立った唾液が俺の顔面にひっついた。
「まぁ久しぶりに来た感じっす。」
顔を袖で拭いながら精一杯の嫌悪感を視線に乗せて応えた。
「へー。麻雀はカミチャで変わるからあんたの下に座るわ。」
妖怪はニターっとした表情のままシモチャに座った。


「おいっ。いつものドリンク」
シンメトリーが他の客に出してるドリンクと異なる謎のコップを持ってきた。
そのコップには48手が描かれていた。
俺が軽蔑の眼差しでそのコップを見ていると、妖怪が言った。
「俺はまだ32くらいしかヤッたことないんだけどよ。お兄ちゃんはどれくらいヤッたことある?」
知らねーよ。10個くらいじゃねーのか?
「わかんないっす」
「わりーわりーまだチェリーだったか。」
わざわざ否定するのもだるいのでそういうことで話を合わせてやるか。
「そうっすね。俺はまだ純潔なんで。」
「俺が相手してやろうか?」
俺の毛穴という毛穴が膨張して今まで感じたことのない寒気が襲ってきた。


「ここのメンバーはほとんど俺が食ってやったんだ。」
寒気を通り越して吐き気がしてきた。
「金持ちのボンボンが俺は好きなんだ。肉棒にミソがつくのがたまんねーんだよ。」
何も返事が出来なかった。
リアルな表現に恐怖を感じた。
シンメトリーもデスノートもシンヤも食われたのか?
「シンヤみたいな気の強いタイプはたまんねーよなグヘヘ」
もう俺はノックアウトして遠い目をしていた。
「そんなわけねーだろタレ目。お客さんにキモ絡みしないでくださいよ。」
シンヤが会話に入ってきた。
「邪魔すんなよ。折角お兄ちゃん口説いてていい感じだったのに。獲物は完全に困惑したいい表情してたのに。ボッキしそう」
なんなんだコイツは??
「麻雀以外で人を喰っちゃダメですよ。」
シンヤが言うセリフではないが、今回は助かった。
「じゃあ麻雀で喰って借金漬けにしてリアルでも喰ってやるよ。アイツみたいにな。グヘヘ」
アイツ??そんな奴いるのか?
「ムラさんのことっすね。」
妖怪は下腹部をボリボリかいた。
「アイツの実家まで行った。アイツの書いた念書持ってったら、親が泣きながら全て払ってくれた。もっと沢山ユスってやって骨の髄までしゃぶりつくしてやるよ。あのボンボンが働いた金はほとんど俺の懐。死ぬまで俺のために働かせてやるぜ。アイツの彼女も抱かせてもらったしな。」
「アイツの彼女って…」
「マリナだよ。アイツの借金チャラにしてやるって言ったら簡単に股開いた。アイツの目の前でバックでハメてイカせてやった。アイツの絶望と憎悪とマリナに向けて見せた泣き顔がたまんなくてよ。」
ただの妖怪じゃない。
コイツは見た目こそショボイが魔王だ。
しかし、何か匂う。
これは見栄っ張りな奴の匂いだ。
妙にリアルな感じが嘘くさい。
メンバーも話半分で聞いてる感じが伝わる。

ラスハンをこのタイミングでかけるとナメられる。
ここは麻雀で分からせてやる!
強く握った俺の拳はあまりに華奢で頼りなく鬱血していた。


続く

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