朝の登校デート

 「詩織、そろそろ起きなさい。遅刻するわよ」

 母に何度目かの発破をかけられ、私は重い体を起こした。寝ぼけなまこで壁掛け時計に目を向けると、まだ出発時刻には程遠い。私の怠け癖をよく知っている母は、いつもこうして早めに起こす。

 起きると理由もなく沈んでいることが、私にはたまにある。今日がまさにその典型例だった。

 着替えを済ませて目を擦りながら、着替え、洗顔、歯磨き、トイレなどを済ませた。

 リビングにひょこりと顔を出すと、父がちょうど出勤するところだった。父を見送ってから、朝ご飯を食べて、申し訳程度の化粧を施す。高齢の先生は、早いと言うけれど、高校生になれば普通のことだと私は思う。

 時間が来ると、私は外の世界に繰り出した。

 朝陽を直に受け、眩しさに目を細めていると、凩が吹きつけて、屋内から出てきたばかりの体から熱を奪った。マフラーをキュッと閉めてから、歩き出した。

 校舎が目前に迫ると、前方に私のよく知っている人が見えた。彼の広くたくましい背中と、大きなバックを肩にかけているのを見たび、付き合って一年ちょっとするのに、未だに心臓が早鐘を打ってしまう。

 自然と、足が早まる。

 遅れそうなどという、マイナスの理由から来るものでは一切無い。むしろ、母が早く起こしたせいで、時間はたんまりとある。

 彼に早く会いたいという、プラスの感情が私の重い足を前へ前へと確実に運ぶ。

「高志〜」

 我慢ならずに小走りになりながら、手を振って彼を呼ぶと、ビュンと音がするくらい勢いよく、彼が振り向いた。私が迫っているのを視認すると、頬を緩め、手を振りかえした。

「おはよう詩織」

 追いつくと、優しい微笑みを浮かべて彼が言う。おはよう、と返してから、どちらからともなく手を繋ぐ。

 今日という一日が、始まる。いつの間にか、気持ちは上向きになっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?