IFRS(国際財務報告基準)とは?日本基準との違いと導入が進む背景を解説

最近多くの企業が導入を始める IFRS (国際財務報告基準)ですが、皆さんはどんなものかご存知でしょうか。本記事では、導入が進む背景や特徴・導入時の注意点・日本基準の違い等について実際に導入を進めている現役公認会計士が説明いたします。

今更ながらIFRSの話をします

IFRS、知っていますか?このような記事を読んで下さる方であれば、全く知らないことはないかと思います。国際財務報告基準、ざっくり言えば会計基準のグローバルスタンダードです。使い込まれたテーマですが、今回はこのIFRSについて、基準としての特徴や導入の背景をご説明します。
幸か不幸か筆者の勤務先も現在進行形でIFRSの導入準備を進めています。アカデミックな内容は最低限にしていますので、実務上のイメージを持ってもらえればと思います。

IFRSの特徴

IFRSはもちろん聞いたことがあるけど、結局日本基準とどう違うのかピンとこない方はいるかもしれません。日本基準も大概ですが、IFRSの本文はとてもわかりにくいですし、基準自体も改訂が続いています。
強引にIFRSの特徴を3点に集約すると、「やわらかい」「いまなら」「たくさん」です。あえて表現を崩しました。せっかくなのでこれだけでも覚えてください。

①やわらかい

学問的な言い方をすれば、原則主義といわれる考え方です。IFRSは枠組みなど基本的なプロセスの記載が中心であり、いわゆる金額基準のようなものは通常ありません。各企業がそれぞれの重要性の判断で取り扱いを決定します。投資家をミスリードしない範囲で裁量があるわけです。税法とは真逆であり、ある意味では不親切ともいえます。

②いまなら

公正価値といわれる概念です。近い概念で日本では時価などと言われます。IFRSでは資産の評価を将来キャッシュ・フローの現在価値に基づくことが多く、いわゆる取得原価主義が今もベースにある日本基準とは異なります。「いくらで買ったのか」ではなく「今いくらなのか」を重視するイメージです。減損会計の取り扱いの違いが典型例でしょうか。

③たくさん

開示量が増えることです。IFRSに移行して有価証券報告書のページ数が倍になった、といった噂を聞いたことがあるかもしれません。IFRSに移行して開示が減ったという会社はまずないと思います。これは考えてみれば当然の話で、IFRSの基準自体は「やわらかい」原則主義なので多くを語りません。したがって、適用している企業が、私たちはこうやっていますとちゃんと説明しないと投資家はわからないというわけです。

IFRS導入が進む背景

最近は大企業だけでなく、中小の上場企業でも広くIFRS導入が進んでいますよね。
日本取引所のホームページによると、IFRS導入済みの会社数は2018年11月22日現在180社にのぼります。時価総額ベースで約3分の1に達しているという報道もありました。
なぜここまで導入が進んでいるか。理由は2つあると思います。

①そんなに違いがなくなってきたから

前述のようにIFRSと日本基準では根本的な考え方の違いはあるものの、会計基準のコンバージェンスが進んでいます。ガラパゴス基準であった日本基準について、IFRSに寄せる方向の改訂が行われており、ギャップが少なくなってきています。今後も収益認識に関する日本基準の大改訂が予定されており、IFRSとほぼ同一の内容になることが決まっています。
このように、日本基準の内容が徐々にIFRS化しているが大きな要因の一つと考えられます。

②みんなやっているから

身も蓋もない理由で恐縮です。2010年代初頭のIFRS導入が始まった時期は、リーマンショックや東日本大震災なども重なったことから、一部の会計への意識が高い企業が導入するにとどまっていました。先行事例も増え、経済環境も一応は回復しつつあったことも重なり、ここ数年で導入企業が一気に増えたようです。さらに、IPOの活性化と連動してIFRSに基づく新規上場も増えています。
特に日本企業の場合、会計処理や開示において他社事例を参考にすることが多く、導入企業の増加がさらなる増加をもたらす、指数関数的な導入が進んでいるわけです。

IFRS導入時に気を付けるべきこと

冒頭でも申し上げましたが、筆者の勤務先も現在進行形でIFRSの導入準備中です。やはり大変です。やることがたくさんあります。自身の経験も踏まえ、経理担当者として認識した方がよいことを3つ記載します。会計基準の個別具体的な話ではなく、「IFRS導入」というプロジェクトにあたっての心構えとしての留意点です。

①基本的に導入作業者が得をするプロジェクトではない

IFRS導入に関する実行部隊は幅広いです。IFRS導入の旗振り・交通整理を行うプロジェクトチーム、本社及び事業部門の経理担当者、現場の業務担当者、システム部門等が主なところでしょうか。
そして残念ながら、この人たちが目に見えて得をすることは少ないです。IFRSを導入しても直接的には利益は1円も増えません。導入完了時は何か報奨があるかもしれませんが、IFRS導入は長期のプロジェクトのため、メンバーが入れ替わることもあります。しんどい時期に頑張った人は完了時にはすでに違うプロジェクトにアサインされ別のしんどいことをしている場合もあるのです。
IFRS導入による教科書的なメリットを挙げることはできますが、それが現場にとって何かをもたらすかというと説明は難しいです。現場のモチベーションがあがりにくいプロジェクトであることを十分考慮して、調整を進める必要があります。

②現場が主役

先に申し上げたように、IFRSは「やわらかい」です。各企業の実情を踏まえて具体的な取り扱いを決定していかなければならないです。そのため、プロジェクトチームだけで社内の規程類やマニュアルとにらめっこしていても判断できないことが多いです。また、IFRS導入が完了したら基本的にプロジェクトチームは解体されるため、本社及び事業部門の経理担当者が実作業を進めなければならないし、経営層はIFRSに基づく財務諸表を理解し意思決定をしなければなりません。
このように、IFRSは最終的に現場が腹落ちして使うことのできるものでなければならず、プロジェクトチームが机上で完結できるものではないです。「会計基準の難しい話」と現場を思考停止させることなく、粘り強くコミュニケーションを行い巻き込んでいく必要があります。

③棚卸のいい機会

最後くらいは前向きな留意点を記載します。製品の実地棚卸のことではありません。
IFRS導入はこれまでの業務プロセスを棚卸する絶好の機会です。経営層に承認されたIFRS導入という「錦の御旗」があるわけです。
企業の事業構造や具体的な業務プロセスを再確認してIFRSへの対応を検討する中で、既存のやり方に拘束されず、効率的なやり方にリビルドすることを考えて下さい。これまでのマニュアルにIFRS対応業務を追加する、というアプローチではもったいないです。
会計基準という根本的な拠り所を移行するなんてダイナミックな機会は、今後二度とないかもしれません。それまでの慣習や過去のルールに拘束されすぎず、業務の棚卸を進めてもらえればと思います。

IFRSから逃げないで

方々で言われている話でしょうが、経理に携わる人であれば今後IFRSは避けて通れません。今実務で関わりのない方も、何らかの形で向き合うことがあると思います。専門的な知識やトピックを常にアップデートしておく必要はありませんが、基本的な考え方や潮流は理解しておくようにしましょう。

『ヒュープロ マガジン』ではIFRSについて、他にも様々なコラムで詳しく解説していますので、気になる方は下記のページをご覧ください!


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