とめなきゃ、ああ、

__

「柔軟剤をさ、少量呑んだんだよね」

  電話の向こうからザザッとノイズが聴こえる。ザザザ。 ザ……__「は?」幼なじみの一言に低い声が出る。

「やばいよ。柔軟剤さ、香りいいけど口の中に広がると良い香りが充満して逆効果。吐き気を誘う。ほら、香水強い人が近く通ると臭いじゃん?あれ。正しくあれ。」

そんな事が聞きたいんじゃない。そう思いながら深夜1時を差している時計の針を見て見ぬふりして部屋の電気を消さずに部屋から飛び出す。 足音を大きく立てて、寝ているであろう人物に聞こえるぐらい音を立てて、玄関から外へ裸足で飛び出した。

「そんでさ、お茶とか呑んだんだけどまじで無駄。例えるなら…シャボン玉の液体飲んだことある?」
「ない、ない……」
「ないか、じゃあ…水かな。水と塩を合わせると塩水になるじゃん?上手く混合するじゃん。アレだよ、本当に。上手く混合するんだよ。そして余計に吐き気を誘う。」

呑気に話すその声で自然と腹を立てる。柔軟剤を飲んだ?そんなパワーワード初めて聞いた。赤ん坊が飲むことは事故であるだろうが意図的にだれかが飲むことは軽率でない。ないだろう。

「気分がハイになるとマジで無敵なんだよ。なんでも出来る気になる。そんで俺」
「もう、もうしゃべんないでくれ」
「え〜無理。時間ないんだし。そろそろ就寝時間だし〜」

深夜1時に電話しといて何言ってんだ。と思わず言ってしまうと電話越しで笑われた。笑うな。

足の感覚は不思議だ。道路を走ってるのに焦ってるせいか全然石の痛みを感じない。でも意識を足に向けるとすぐ持っていかれる。痛くなってくるのだ。人は不思議な身体の構成だ。

「あっ、今日さ、葬式場所通ったんだけど、マジ人多くね?あんなに人いると逆に怖いわ」
「なに……っ、不幸な話は、きらいなんだけど」
「俺も嫌いだよ」

なら話すなよ。 そう言いたくなるが今は息が吸いたい。 走っていると呼吸が浅くなるから酸素がたりなくなる。 ああもう、早く着いて。

「マージで、俺も嫌い。死に関連する話題はぜーんぶ嫌いだよ。ニュースもな」
「なら、なんで、のんだ。」
「自分は別。ゴミの仕分けの時もさ、別々にすんじゃん」
「君はごみじゃない、から」
「……その言葉、そっくりそのまま返したいわ」

 家に近くに到着する。いつもついてる窓は明かりが点灯していなかった。暗い部屋の中、何してんだ。そう言いたい気持ちを抑えて、息を落ち着かせて電話越しで語り掛けた。

「ついたよ、」
「まじ?きたんだ」
「入るから、文句言うなよ」

文句?別に言わないけど。ありがとうな

家の扉を強引に開けて、スタスタと階段を上がる。近くの部屋からバタバタ音がするから、自分を泥棒と勘違いしているのかもしれない。上まで上がりきると、「ねえっ、」

部屋の扉を前で止まり、部屋の扉を開けた。

「……っ、」

そこには何もない部屋。勉強机とベッド、茶色のクローゼットと脱ぎ散らかしてある制服。そしてひとつの携帯が転がっていた。

「きてくれたのね、きてくれてありがとう、葬式、きてくれなかったから、……く……び、ううん、きてくれてありがとう」

ペタリと腰が砕け落ちる。そうだ、今日はあいつの葬式。無意識に額からこぼれおちる。ちがう、瞳からなみだが溢れている。

「ああ……っ」

 自分の首元が少しいたい。すこしいたくて、かゆい。 手を首に添えて、またなみだがあふれだす。 いやだった。じかくしたくなかった。 いやだ。 でももう自覚してしまった、知ってしまったんだ。 もどれない、もどってしまってはダメなのだ。深夜1時半、 声をしゃくりあげながら泣いた。


果たして、とめてくれたのはどっちだろう。

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