解放

 日々を終えることが苦痛だった。
泥沼に浸かるように脚が重くなる。瞼を開けばみえてくる世界はいつも同じ景色。変化が訪れることを知らない景色だった。

 今日だけは脚が靴を履いてるときぐらいは軽い。あと一歩進めば道がない、そんな所に立っているからだろうか。隣で遠くのこちらより少し高いビルを見つめる彼の顔をみる。

「…本当にいいの?」

 彼はこちらに視線を移すと、ほんのり笑う。

「いいよ」

 心中なんて太宰治の小説以来の単語だ。苦痛で仕方がない事を彼に話すと、彼は「じゃあ、終えようか」と言葉を繋いだ。

そこからの行動は早く、お互いラフな格好でビルの屋上に散歩するかのようなスピードで移動した。胸がドキドキする、彼を想ってるからなのか、ビルの屋上にいるからなのか。風が吹く。冷えた風が背中を押している。そろそろか、そう思ったときにはふわりと身体が傾いた。

「苦痛の日々を過ごしてくれてありがとう」

彼がそう言う。いいんだ、あなたの為だった。勇気なんてものはなかったし、でも、あなたとならいいかもね。

「この世とおさらばしよう」

彼がそう言う。 目線が傾く。






君だけね

_____ドンッ

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