希求

 神様。 ああ、神様。 

 周りの景色が同じものに同化していくこの瞬間。環境の変化で心境のペースが崖のように崩れ落ちるこの瞬間。地球が回転している間にも自分の脳みそもぐるりと回転している。 

 知らない顔が目の前に。何人も。恐怖心で汗が額を溢れ落ちそうになった時に、やっと今は4月なんだと自覚した。4月。始まりの月。

「今年はさ、同じクラスになれなかったな」

何処から聞こえてきたか分からない声に耳を澄ませ、その後に手汗がじわじわと滲んでることに気づく。どうしよう、想像以上にパニックに侵されている。 視野が徐々に狭まっていく。 ゆっくりと。

「今年は頑張ってね」

頑張っていない人間なんて存在するのだろうか。ひとつの疑問が大きく釘を刺す。どうして変化の耐久性がつかないのだろうか。誰だって慣れないことから始まる。けどそれが異常なほど大きいことだってある。 大きくて、「なあ」

「もう、終わりだってよ。始業式」

 隣にいつもいてくれる友人が欠伸をこぼして立ち上がる。そうか、今始業式だったんだ。目の前にいる何人もの見知らぬ顔は新しい先生だったのか。 夢の中から一気に覚醒したような感覚だ。

「どうした?また考えてんのかよ」
「いや……うん、少しだけ」
「お前の少しって周りからすると大きいんだわ」

 自分も立ち上がり、友人と肩を並べる。友人は"僕"が体育館の中心に座れない事を知っている。だからいつも隣にいる。いてくれている。 

迷惑を掛けている自覚はある。謝罪の言葉をを溢せば謝るなと言われるから言わないが、心の中でひっそり謝罪している。神様、優しい友人を隣に置いてくれてありがとう。

友人はいつも、神様はいない。いるのはクソ惨めな人間共と壊れた街だけ。と話す。僕が事ある毎に「今日も神様のおかげで頑張れそう」と話すから、友人はそれに反論して「神様なんて居ねぇから。」と同じことを言ってくる。現実をつきつけようとしてるのか、それとも神様のおかげじゃなくて自分のおかげで頑張れてんだろと遠回しに言ってくれてるのか。 この二択で僕はいつも考えるのことを辞める。 無駄だから。かんがえたって、無駄だから。

「帰ろうぜ、眠てぇ」
「また寝てないの?」
「寝れねえから」

友人は身体の不調を訴えることが多い。だから僕はいつも心配している。なのにこの友人ときたら、大丈夫の一点張りなのだ。

「……倒れないでね」
「お前より運動量多い上に食事摂ってるから大丈夫」
「一言余計な気がするけど!!」

 ぷはっと吐き出すように友人が笑い、それを見て僕も笑ってしまう。何だか肩の力が抜けたみたいだ。神様、本当にありがとう。僕は友人の為にも自分の為にも、頑張ってみようと思う。














うっ_____。

吐き出す胃酸とその残り香。 漂ってくるものにまた吐き気が込上がり情報量に脳が必然的にパンクする。

「君って、本当に……」

 自宅のトイレの個室に居るはずなのに何処からか声が聞こえてくる。それも真隣にいるかのような音量。なるほど、そこで少し自覚する。想像以上にパニックに侵されているようだ。視野が徐々に狭まっていく。 地味に早く。

 涙がこみあげてきて、噦上(しゃくりあげる)。
口元を手で覆っても止まらなくて、"俺"はトイレの個室の中心で立ち上がれずにまた吐き続ける。

謝れると虫唾が走る。昔のトラウマが蘇ってくるからだ。 ごめんなさいは何に対して?お前は謝るようなことしたかよ。そう思ってしまう。

友人はいつも、神様はいる、と話す。僕が頑張れるのは神様のおかげなんだって。くそキモイ崇拝してやがると思いながら、そんな所にも依存してしまっている俺に対して大きく殺意が湧く。いない存在をそんなに崇拝してるんだから、俺がパッと消えても想ってくれるんだろうな。と、勝手に想像して興奮を覚え、そしてまた吐いた。 無駄なんだ、そんな事考えたって無駄なんだ。 

「……あいつは俺の、よわいぶぶん……」

支えるから、想っていてほしい。心配させるような一言を毎度こぼしてしまうことに少し謝罪する。でも仕方ないんだ、そうしないとお前の脳ミソに侵入できないから。

「あしたも、となりにいてやるからな……ひっ」

目からも口からも溢れ出す。神様、ああ、神様。あしたはどうか、晴れますように。憎たらしい存在なんだからそれぐらい叶えてくれたっていいだろう。 そう思い、もう一度嘔吐した。

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