保険適用になった今こそ知っておくべき!高度不妊治療であなたが失う17の宝物【14】:プライド
高度不妊治療であなたが失う宝物。
14番目の宝物は「プライド」です。
「プライドなんて私、持っていないよ」なんて声が聞こえてきそうですが、プライドといったときに思い浮かぶ自分よがりな意地などネガティブなプライドではなく、ここで指すプライドとは、人間誰しもが持っている最低限の尊厳に近いプライドのことです。
具体的にいうと、「自分がやってきたこと、汗をかいてきたことに対しては少なからず結果が付随するという理論」のようなものです。
これが、ことごとく破綻します。
突然ですが、あなたは、人生において他人に「頑張ったね」と結果を褒めてもらったことはありますか?
例えば受験。
例えば就職活動。
例えば仕事におけるプロジェクト。
このごく一般的な「頑張ったね」の言葉は、実にそのとおりであり、あなたは頑張ったからある種の「成功」を手に入れたのです。
そして、その「頑張った」は、相対的な指標からきています。
受験では、(多少の運や才能はあれど)それまでの蓄積、つまり学習量がまわりよりも多かった、投入したエネルギーが大きかった人からよりよい結果を手に入れていきます。
就職活動においては、まわりの人よりも情報収集に力を入れた人、行動量が多かった人、面接の練習を人知れずくり返していた人、時間・お金はかかるものの人よりも多くの企業を受けてチャンスの母数を増やした人、これらの人によりよい結果が出ます。
仕事におけるプロジェクトで比較対象となるのは、過去の担当者や過去の自分に「競り勝った」リターンとして、よい結果がついてきて、ゴールに到達します。
これらは当然の原理です。
今まで意識すらしたことがないという方がほとんどでしょう。
こうやって、人間は「頑張れば結果がついてくる」という原理、逆にいうと、「結果が出ないのは自分の努力不足である」という普遍の原理を覚えるのです。
それが、「よし、今回は絶対にうまくいかせてみせるぞ」という原動力、よい意味での「プライド」となって、さまざまな局面で力となるのです。
このプライドは、人間であれば誰しも持っているものです。そして、知らず知らずのうちに自らを支え、鼓舞するものとなり人生の大きな構成要素となっているのです。
しかし、残念ながら不妊治療はこの原理がまったくといっていいほど通用しません。
どれだけの金額を費やしても、時間をかけても、親になりたい思いが強くても、人よりも何倍、何十倍、努力していても、結果は別物。
その「プライド」はあっさりと失われます。
この状態になってみると、想像以上に厳しいです。
なかなか受け止められません。
「自分はこれだけやっているのに」
「こんなにも頑張って通院しているのに」
「こんなにも長期間、痛みや不調に耐えているのに」
そうやって、自分の中に大きな負担が蓄積していきます。
これ、放っておくとある日、突然ガクッときます。
心が折れるのがわかるのです。本当に、突然やってきます。
そうなると、もとの状態まで戻すのが非常に難しくなります。
ここにおいて問題の本質となる部分は、高度不妊治療はそもそも自分でコントロールできないということを実はそれほど理解していない(やっぱり自分でなんとかできるのではないかと思ってしまっている)という点と、それを1人で抱えようとしているということです。
まず、「高度不妊治療はそもそも自分でコントロールできないということを実はそれほど理解していない」という部分について解説します。
「実はそれほど理解していない」のは当然です。
上に書いたように、この「理不尽な原理」によって構成されているものって、ごくごく普通の人生を歩んできた私のような人は今まで味わったことがないものですから。
今考えても、高度不妊治療ほど非情で理不尽なものってないと思います。
その人の思いやかく汗の量なんておかまいなし。結果は結果。「忖度」なんてしてくれません。こんな経験、普通の人ならしないです。
1回でうまくいく人をしり目に、何度も何度も泣きを見るあなた。わかります、その気持ち。私もまったく同じ思いをいだきながら採卵を11回。結果を聞いては泣き、結果を聞いては泣き、どんどん疲弊していきました。頭がおかしくなりますよ、普通の人間なら。
なので、まずはそこを理解していただきたいと思い、受験や就職活動の例えを先に書かせていただきました。こうやって「誰しもが経験するもの」と比較すると不妊治療がいかに特殊かわかりやすいと思います。
たしかに「頑張っている」のです。でも、「努力量と結果との関係」は今までのものと本質的にまったく異なるものであるということを、まずはしっかりと理解されることをおすすめします。
次に、この理不尽な原理を、女性側1人で処理しようとしてしまうということについて解説します。
無意識にそうしてしまっているという状態の方が非情に多いです。私もそうでした。あなたはいかがですか?
これ、いつか限界がきます。
具体的な対策としては、パートナーと「ここまでする?」というレベルまで共有する、これにつきます。
「今日の診察はこうだった」
「結果はこうだった」
「次はこうしたい」
これぐらいは話をされていると思いますが、そうではなくてもっと本質的な部分も話す時間をつくっていくことが必要になります。
不妊治療の状態(経過・結果)と同じように、あなた自身の状態・置かれている状況をしっかりと共有することが大事です。
不妊治療の「理不尽な原理」について、まずはパートナーとしっかりと
あなたが抱えているものがどれほど特殊なものなのか、「すごく大変なことをやっている」というぼんやりした印象だけが「共感」として扱われているがゆえに、その本質がわからずに女性側が1人で抱えこまないといけない状態になるのです。
そして、女性側だけが「プライド」を失っていく。今まで当たり前だった人生の前提が崩れていく――。
パートナーは誰しもが当たり前に持つこの「プライド」を失うということを、なかなか実感できないですから。
そのため、言葉に出して説明することで気持ちをわかってもらえる安心感が芽生えます。これがとても大事です。
逆にいうと、この手の「苦悩」は言葉で伝えないとわかりません。
私自身の経験を通しても、この「本質をしっかりと伝える」という部分は高度不妊治療を続けるにあたり、精神的な面に大きく影響する部分だと断言できます。
結果が出なくて辛いというのはもちろんのこと、その裏にどういう原理があって、本質的に何が辛いのか、ここをしっかりと伝えて理解してもらうことです。
それができれば、そんな「本質的な苦痛の共有」ができていれば、病院についてきてくれない!結果を聞いても「次は大丈夫さ」というのんきなことしか言わない!などという小さなことに不満を感じることもなくなってきます。
そして、パートナーとは普段からよく話して、泣きたいときはしっかり泣ける場所をつくっておくことです。
高度不妊治療は、あなたが意識されていなくても、想像以上に重たい鎧(よろい)を背負っている状態なのです。
通院のストレス、結果が出ないストレス、今後の不安…… これらを抱えながらも、クリニックや職場では平然としていなければならないという現実。
その鎧を下ろす場所を必ずつくってあげてください。自分自身に。
それって、やっぱりパートナーの前なのです。
そのために、本質的な部分をしっかり話す時間を設けてください。
毎日だとしんどいので、週に1度でもよいです。
何かショッキングなことが起こってからではなく、このような内容こそ普段から、比較的冷静なうちに言語化しておくことをおすすめします。
そうすることで、人として当たり前に持っている「プライド」が失われることに一人で恐怖を感じることなく、パートナーと本質的な部分でしっかりと協力しながら高度不妊治療を進めることができます。
以上をまとめると、高度不妊治療を本格的に始めてからは、「高度不妊治療はそもそも自分でコントロールできない理不尽な原理によって構成されている」ということを、まずはあなた自身が理解されること、そしてパートナーにもご自身の言葉で話してみてください。
そして、不妊治療の状態(経過・結果)と同じように、あなた自身の状態・置かれている状況をしっかりと共有することをおすすめします。
高度不妊治療であなたが失う17の宝物のうち、12~14番目は仕事やキャリアアップ、プライドなど「あなたが築き上げてきたもの、そこからくるリターン」に関わるお話をさせていただきました。
15番目からは、不妊治療の闇ついて解説していきます。最も根深く、人生に大きく影響を及ぼすので、対処法の準備がより大切になってくる部分になります。
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