好きなものについて話したい -クルマ-

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「クルマが好き」というと、たいていの人は表情を険しくする。世間から見た『クルマ好き』のイメージとは、そういうものである。

かくいう僕もそうだ。クルマ好きというのは走り屋で、チューニング好きで、そしてオリジナルの良さをすべて打ち消すような──つまり悪趣味な──改造を施す。そういうイメージ。

もちろん、これらは正しくない。…いや、50%くらいは正しいかもしれない。

なにが言いたいかというと、クルマが好きというだけで彼らのような『クルマに乗っている自分が好き』な人たちと一緒にされたくない、ということだ。


・『クルマ』に対する印象は決してよくない

多くの自動車愛好家には信じられないだろうが、現代においてクルマに対する印象はよくない。

ひとつは、維持費がかかること。買うのに金がかかるのは当たり前だが、買った後もひたすら金を食う。ガソリン、自動車税、2年に1回は車検もある。故障したら修理費。雪に苦労する地域なら、スタッドレスタイヤも必要だ。

ふたつは、環境に良くないこと。電気自動車が出てきたにしても、ガソリン車は多い。EVにしてもHVにしても、製造で出るCO2も大きい。

三つは、走り屋によるもの。マンガやらアニメ、あるいは地元の先輩の影響で、公道を爆走する連中は迷惑極まりないものである。そしておおよその割合で、彼らの車はうるさい。

ほかにもいろいろあるだろうが、ざっと挙げればこんなものだ。都会に住む人からすれば、下手にクルマを持つよりも電車などの公共交通機関を使うほうが安上がりだったりするから、クルマに乗る人が邪魔に思うこともあるかもしれない。

そして、この国はそういう都会の住人達によって政治やら経済が回っているから、クルマが好きで(あるいは必要に迫られて)乗る人には優しくない社会になっていっている、というわけだ。

彼らからすれば、どうでも(邪険にしても)いい存在だろうから。


・恩恵は『ドライバー』だけのものか

しかし残念なことに、クルマに乗る人が減ることによって困るのは、実はクルマに乗らない人だったりする。

クルマに金がかかる一番の原因は税金だ。例としてよく挙げられるのはガソリンだろう。ここに小売価格¥50/lのレギュラーガソリンがあったとする。これにガソリン税¥28.70、暫定税率¥25.10、石油税¥2.8に消費税10%がかかってくる。つまり、

a = ( 50 + 28.70 + 25.10 + 2.8 ) b = a x 0.1 a + b = 117.26

が店頭表示価格となってくるわけだ。

ガソリン価格の半分以上が税金で取られるのだから、ドライバーからすればまあたまったもんじゃない。

そしてここからが重要なのだが、上のガソリン税含む自動車関連税は10年以上前に(旧道路特定財源から)一般財源化されており、道路建設・維持管理以外にも使用されている。

多くは社会福祉関連だろう。誰のための、とはあえて言わない。未来ある人たちを撥ね飛ばす老人ドライバーのためなんて、口が裂けてもね。

まあ道路に使われるにしても──そもそも道路はクルマだけのものではないのだが──でこぼこの路面の補修だったり、除雪作業だったり。なにも作るばかりのものじゃないのだ。そして、クルマのためだけに使われるだけでもない。

ところが、これが理解できない人がいる。そしてかつて、そういう人ばかりだった。『道を作るくらいなら、社会福祉にお金を回せ!』と声高に叫ぶ人がね。

彼らは頭がいいだろうに、自分が食べる料理の材料や、着ている服、ありとあらゆる身の回りのものが『なにによって』、『どのように』、『どこを通って』買う店に運ばれてくるかを知らないらしい。自分の部屋で勉強ばかりしていると、自分の部屋の中が世界のすべてだと思うようになるんだろう。

『他人から聞いたことばかり信じて、どうして自分の目で確かめないのですか』とはかの有名な人物の言葉だが、むなしい響きだ。

…そういうことを言いたいわけじゃないのだが、つまりだ、クルマに乗る人が減れば、税収も減る。すると道路の建設・維持管理以外に回せるお金ももちろん減る。かといって、道路にかかる費用を削ることはできない。

雨が降るたび土砂崩れを起こすような山中にも、人は住んでいる。毎年雪や路面凍結で大渋滞を起こす街なんか、いわずもがなだ。これらは当地の住人からすれば、文字通り『大動脈』なのだ。

それにかかるお金を削ることは、生活が不便になるだけでなく、時として生死に直結することになる。それをもう少し真剣に考えなければいけない。


・走り屋は厄介者か

「厄介者か」なんて書いたが、正直に言おう。厄介な連中だし、邪魔だ。

僕が『クルマ好き』を公言しない1番の理由は、まさに彼らの存在だ。少しでもそういうことを漏らしてしまえば、たとえ愛車が日産のマーチやスズキのラパンだったとしても距離を置かれる。それほどなのだ。

なにがきっかけで好きになったかなんて、興味ない人からすればどうでもいいのだ。僕みたいに「小さいころ遊んでたミニカーが好きで、そこからクルマに興味を持つようになった」なんて、聞こえはいいがそれが上のパジェロミニじゃなかったらドン引きだ。

普通の人は、スイフトがノーマルタイプだろうが、スポーツだろうが、RSだろうが、全部同じに見える。アクアがGR仕様だとしても、普通の車に見えるだろう。

長く手入れされて愛されてきたロイヤルサルーンやコンフォートも、半グレみたいな連中が乗り回すアスリートも。同じに見えるかもしれない。

そんなものなのだ。興味ないことに知識を持つ人なんかいない。興味もないのに麻雀の役を全部覚える? 将棋の定跡を覚える? オフサイドのルールを理解する?

そういうことだ。知らなくていいことに、人は非情なほど関心を持たない。

だから『走り屋で、チューニング好きで、そしてオリジナルの良さをすべて打ち消すような──つまり悪趣味な──改造を施す』ような彼らと『純正車が好きで、安全運転で廃車まで無事故で一緒にいたい』ような僕みたいな人間は、傍から見れば同じなのだ。

故に、クルマ好きを公言できない。同好の士をつるむことなんかできない。

SNSで少しでも調べればわかる。僕のようなタイプのほうが少数派なのだ。バンパーやホイールをいじり、車高をあえて下げたり、タイヤを斜めにしてみたり。ダッシュボードにはもこもこしたなにやらを敷き詰めてぬいぐるみを置いたり、キーホルダーみたいなものをバックミラーのとこにつるしたり。

軽ハイトでやってるのを見ると、あまりのダサさに反吐が出る。せめてセダンでやれよ。よっぽど自分の世界に入り込んでいるのか。

そんなに純正車が嫌いなのかな。


・環境に悪い?

クルマが環境に悪いなんて言葉、石炭・石油・LNGで発電された電力で生活してる人から出るなんて大きな驚きだ。

将来、CO2を排出しない車として、EVが期待されているそうだ。もっとも、製造時の排出CO2はガソリン車よりも多いし、どのみち使う電気は(日本においては)CO2が出るものがほとんどだ。運転時か、発電時かの違いでしかない。

そういえば、リチウムイオン電池の製造はかなりCO2を排出するらしい。希少金属を使うとどうしてもそうなるんだとか。

あなたが使っているスマートフォン。それを製造するのに出るCO2はいかほどだろうか。

まあ、そんなの考えたことのない人が環境問題を口にするんだろう。牛の屁(メタンガス)を減らすために海藻を食べさせる実験とか、いかにも知らなさそうだしな。

僕自身、環境問題には興味はあるほうかもしれない。事故を起こした車両の飛び散ってさらえきれてないガラス片とか、すごく気になってるし。


・さんざん書いてはみたけれど

友人に、いわゆる『走り屋』がいる。彼はサーキットでの大事故で記憶が吹っ飛んだとかいうほどの人間なんだが、それを堂々と語る。

助手席で聞かされ、お遊びで100km出されて。僕がどういう心情なのか考えもしないのだろう。

重要なので言っておくが、よほどやむにやまれぬ事情でもない限り、ドライバーにとって『事故は恥ずべき事』である。自身の運転技術が未熟である、左右や後方の確認ができない、最適な速度の調整ができない、適切な車線を走行できない、車幅感覚がつかめていない。

それをひけらかしてなにが自慢になるのだろう。聞かされても『免許、返したほうがいいんじゃない?』という感想しか出てこない。

免許を持つという重みを、どうも理解できていないらしい。

そしてそういう人があまりにも多い。

クルマに乗って仕事をする者として、好きなクルマに乗ってドライブする者として。

どうかあなたが好きな『クルマ』のイメージを下げるようなことはしないでもらいたい。

『クルマ好き』が敬遠される時代から『クルマ』そのものが敬遠されるような時代になってしまう。これはよろしくない。

別にクルマ好きだからってこういうことを言ってるんじゃない。普通車に対してのイメージダウンは、やがて商用車にもつながってくる。そうなると仕事しづらいことこの上ないのだ。

もっと本音を言えば、ヘタクソな運転をする客でもなんでもないやつのせいで僕の運転する社用車が事故に巻き込まれても、なにかしらのケジメはつけさせられる。離合できるようなスペースで止まって待てばいいのに無理やり突っ込んできてこちらが当てられたとしても、指示器を出して右折待ちしてるのに右側から追い抜こうとするクルマと接触しても、こちらに非がなくても反省はさせられる。そういう業界もあるのだ。

みなさんも事故には十分気を付けていただきたい。自分も痛いし、財布も痛い。なにもないに越したことはないのだから。

そしてクルマについて、ほんの少しだけ慮ってやってほしい。ドライバーは愛車を決められるけど、クルマはドライバーを選べないから。よくやったとか、かわいそうだなとか思ってやってほしい。


まあこの文章、1番読んでほしい人には届かないだろうけどね。

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