君たちはどう生きるか、王道の少年少女のための物語だった ※ネタバレ盛り

オタク怒りのデスロード

いやー怒ったね。怒っちゃったね。これを「子供向けじゃないよ。大人向けだよ」って言い張る人間が居ることに怒っちゃったね。

そもそも私がこれを見ようと思ったきっかけは、バズってた「君生き、メチャクチャ児童文学じゃねーか!」って旨のツイートを読んだからなんですよ。で、それに対して「そんなことない。子供向けじゃない。子供には面白くないよ!」って言ってる人も居て、じゃあ児童文学ファンの端くれである私が見てやろうやと思いまして、見たのよ。

私はこれ「子どもたちのために作られた物語だ」と直感しました。まぁ「それって個人の感想ですよね」とか言われたらそれまでなんですけれど、様々な児童文学にある「クセ、生臭さ」みたいなのがモリモリになっていて欲張りセットなんじゃねーのかと思った。
児童文学のファンである自分がその辺について感想や持論をタラタラ述べようと思います。

児童文学は誰向けの物語なのか

そもそも「子どものための物語」と「児童文学」って厳密に言えば違う。
とんちみたいだけど、「文学」と書いてあるので後者は絶対に文字情報なんです。前者の物語というのは文字情報に縛られない。語りや劇や映像作品も物語に入ります。
つまり、児童文学って子ども向けというよりは「文字を読むのが好きな子どもたち」をターゲットにした本なんです。

これによってこの作品で顕著に見方が変わるのは「本好きの大おじさん」かなと思います。基本的に児童文学を読む少年少女は本が好きなので、「本好きの大人」という時点で味方っぽい存在になります。
この大おじさんが神秘的な人間として描写されているのが非常に児童文学くささがあるなぁと感じましたね。

話が少しそれたけど、「子ども向けか」と「児童文学か」というのは厳密には違う話になります。児童文学に親しんでいない人が想定した「子ども向け」が児童文学と親和性のないものになってもまぁおかしくはない。「児童文学だ」って言い方は独特だなと思ったんですけど、おそらくここが肝だったんじゃないかな。

このへんの影響で「児童」の意味が食い違っている部分が多分多いです。児童文学はいわゆる中学生くらいまでに向けたような話なんですが、多分否定派の方々が言っている「子ども」って小学校低学年かそれ以下じゃない?
児童文学愛好家と単純な「子ども向け」というイメージを持った人間との噛み合わなさってこのへんなんじゃないかなぁ~。
例えば「ハリー・ポッター」や「ブレイブ・ストーリー」は児童文学に分類されると思うんだけど、これって後者は特に中~高学年以降向けかなって思うんですよ。で、児童文学愛好家はこの子たちを「児童=子ども」とみなします。このへんの差がでけぇかなって。

まぁそもそもなんだけど、子どもにとって物語を楽しむ上での大きな障壁って理解力とかよりも、おそらく「漢字が読めない」だと思ってるんですよね。だからフリガナをふればなんぼでも読めちゃいますわ~っていう子結構いますよ。
子どもって割と感性や知識、読解力が幅広いので、どんな作品を楽しむかはもう個人差としか言えない。きみんちの子のことはきみが考えてくれ。
要は「双方想定する子どものイメージが違うから食い違ってるのでは」ということです。

多分ね、児童文学だぞ!って言ってちょっと怒ってた該当ツイートの人は「これを子どもたちから隠すべきではない」って言いたいんだと思う。情報にアクセスできる媒体が制限されている子どもたちへのアピール手段がないのがとても嫌なんじゃないかな。

児童文学の生臭さ

今回「性的な部分やグロテスクな面、死を感じる表現」を見て子ども向けであることを否定している方を見たんですが、児童文学って結構それ系の臭みがあるものが多いんですよ。
例を挙げて言うと、「ちいさいモモちゃんシリーズ」だとパパが不倫をしている表現がほのめかされてるし(歩く木の場面。)、銀河鉄道の夜なんかモロに死の話だし、そもそも子供向けのホラー作品なんかが腐る程あるのも子どもたちが怖いものを求めている証左になっているかなと。
なんならグロで言えば当時の子供達もこぞって見に行っていた千と千尋の神隠しのほうがグロくないか。私たぶんあれを見たのが小学校低学年だったと思うんですけどね。

で、今回そういう生臭さが盛り込まれているのが逆に「児童文学っぽい!もりもりのファンタジック表現!」って思いましたね。よぉわからん大人が隠したがるものって、子どもが見たがるものであることが結構あるんですよね。そこを包み隠していないし、逆に子どもがさほど気にしないであろう箇所の描写をしっかりしているのはかなり好感が持てますね(夏子の部屋に明らかに父親の服があるところとか)。

これは余談ですが、性的な部分について、直接的な男女のキッスの描写すらないのにあれがエロいと感じるのは、そういう目で見てる「大人」だからですよ……。汚れっちまったな……。
私も「おい夏子てめぇ母親が死んでそう経ってない子どもになに腹違いの兄弟自慢してんだよ!」って思ったんですけど、これも割と大人の感想かなって思います。
なんにせよなんですが、あれ見て「エッチだなぁ」って思った子どもが仮にいたとしても、それは正しく思春期を迎えていると言えるんじゃないですかね。映倫も制限なしだったし。

君生きに見る「子どものための物語」らしさ

君生きはざっくり言うと「少年の異世界冒険物語」です。
もうこの要素だけでも子どもに寄せていると思いませんか。児童文学の定番ですね。例えば「不思議の国のアリス」「エルマーの冒険」「ナルニア国物語」あたりが有名かなぁ。ワクワクハラハラしちゃうよね。私は見ていてそう感じた。あとナルニア国と共通するのは「主人公は選ばれし子ども」という部分ですね。メチャクチャ主人公でいいですね。最近なろう系とかでこれを大人が求めている傾向もありますけど、子どもたちだって大好きな要素です。なろう系を求めている大人が子どもっぽい説も正直ある。

また、「不思議な体験が夢だったのが現実だったのかよくわからない」「みんな忘れてしまう」というのも児童文学に結構よくある構造ですね。
さきほども出た「不思議の国のアリス」「ナルニア国物語」に加えて「ぼくは王様シリーズ」「わかったさんシリーズ」等を書いた寺村輝夫氏はこれの名手です。日本の児童文学に結構多い印象ですね。

あとでかいのが主題にもある「君たちはどう生きるか」っていう問いかけなんですよね。これは元になった本でも子どもへの問いかけらしいんだけど、今作では大おじさんの言う積み木の話がこれに該当すると思うんですよ。「未来のある子どもたちに向けてのメッセージだな」って思うんですよ。
子どもたちに未来を託す話は結構あります。「モモ」とかね。
そもそもなんだけど、もう今後の進路とかも決まりきってあとは眼の前の現実に憂うだけのおっさんおばさんに託したいメッセージじゃねーだろ。

子ども向けのエンタメを作りつつメッセージを込める。まさに宮崎駿のやりそうなことじゃないですかね。

それはそれとして

あんだけ自信満々に「これ子供向けじゃないっすわ」って言ってる人が居るということは、私が間違っている可能性も十分あるということ。
つまりなんですけど、これを好む子どもなんて今は居ないんだということなのではないか? 「子どもの児童文学離れ」が起きているのではないか? という薄っすらとした怖さがあります。

まぁ児童文学ってなくても生きていけるもんなんですけど、失われたものって簡単には戻ってこないんですよ。
一般に知られるような超有名な作品を除いた多くの名作がここから埋もれて言ってしまうのかと思うとちょっとね。

ドチャクソ有名でリンドグレーン賞っていう賞さえあるリンドグレーン作の「長靴下のピッピ」ってご存知です? 「クラバート」「大泥棒ホッツェンプロッツ」「小さな魔女」といった数々の世界的な名作を生み出したプロイスラーという作家をご存知です?
知らない人多いと思うんですよ。でも本当に世界的な名作なんですよ。
これらと同程度の作品たちが一斉に人々の記憶の中からごっそり消えるんだと思うと、私は今後の文学について憂慮してしまう。

あと最近ね、子ども向けのものを大人が消費する流れが結構でかいと思うんですよ。ジャンボリミッキーとか本来大人が跳ね回るもんじゃないだろ。
子どもが児童文学離れしたかもしれないけど、大人は逆に子ども化してると思うんだよね。まぁ一人でディズニーリゾートに通ってる私が言えたことでもないんですけど……。

私は児童文学、児童向けコンテンツを児童向けとして愛しています。シナぷしゅおもしろいよね。でも「自分が児童向けコンテンツが好きだ」ってことを認められない大人が居るんじゃないかな。だからそういう人が「これは自分たちが見て楽しいものだから子ども向けじゃないよ」って思っちゃうんじゃないかな。
「かつて児童文学が好きだった大人向け」とか言ってる人も多分これで、「なんで昔の児童文学っぽいものを今の子どもが好きになっちゃいけないのか?」っていうもにょもにょがあるわけですよ。

こうやって児童向けかどうか? という判定が上手にできていない大人が最近多いんじゃないかなぁ~と思うんですよね。さじ加減だろって言われたらもうハイそうっすねとしか言えないんだけども、自分たちが子ども化しすぎていることに気づかずに「これは大人のもの!」って言っちゃってることがあるんじゃないのかなぁ~って思うんですよね。

おわりに

私は君たちはどう生きるかは「子どもたちのためのモリモリファンタジー冒険小説だァ!」と思いました。

が、今回の文中で全く触れてなかった部分があります。
「おもしろかったとは一言も言ってない」ってとこです。
いや、面白くはあったんですけど、メガホンもって「みなさーーん!面白かったですよーーーー!」って言うほどではなかったかなぁ。

夢じみたファンタジーの特徴になるんですけど、「筋がおぼろげなので内容の面白さの芯を感じづらい」っていうのが結構でかくて、「なんか面白かった気がする」というあっけなさがあります。こういう感覚が好きな人も結構居ると思うんですけどね。
「こういう世界があるかもしれない」ということが少なくない誰かの救いになると思っていて、私はここに関して非常に好感を持っています。だから好きな作品ではあるんです。
でもこう、ガッツリと身のある面白さではないということだけ。
夢のような世界に浸りたい、というタイプにオススメです。「猫の恩返し」とか「千と千尋の神隠し」とか好きな人が好むんじゃないでしょうか。


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