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文献紹介 司法試験 合格者600人時代の基本書


はじめに

今から約30年前の司法試験合格者600人時代(それまでは500人時代だった)の合格者が使用した基本書のリストです。当時の司法試験受験事情を回顧する、あるいは、現在の司法試験受験とは事情がどれだけ異なってきたのか考察する参考になればと思います。

論文対策の勉強法としては、現在のように論証集ができあがっていたわけではなく、各自大学の講義や基本書などから、論点を拾って、論証集のノートを作り上げていくというのが勉強法でした。その意味で、いろいろと基本書をあげましたが、合格段階で論証集作成にとって一番有用かつ有益だったのは、どの主要科目も判例百選でした。

憲法

  • 基本書として、佐藤幸治「憲法」。

  • 使⽤していた当時は新版でした。

  • その他の選択肢としては、佐藤功「日本国憲法概説」、伊藤正己「憲法」がありましたが、憲法訴訟にくわしいものということで、佐藤幸治先生の本を選択しました。

  • 参考書として、芦部信喜・小嶋和司・田口精一「憲法の基礎知識」。

  • 当時は芦部先⽣の教科書がなく、この本を使っていました。

  • 判例百選はすべての法律科⽬で使いました。判例の解説部分は、論⽂にも使えましたし、最終的には基本書としてはこちらがメインでした。

  • ちなみに当時は第⼆版を使⽤してました。

民法

シリーズもの

  • 我妻栄‧有泉亨「⺠法」

  • いわゆるダットサン。⼊⾨のころに使いましたが、論⽂には量的に⾜りませんでした。当時は⼀粒社から出ていました。

  • ただ、当時のスタンダードとしては、有斐閣双書の民法シリーズが一番人気があったと思います。我妻栄「民法講義」シリーズは、量が多すぎて、ということで基本書としてはあまり挙げられなかったと思います。

  • 星野英⼀「⺠法概論」

  • 次に使ったのが星野先⽣のシリーズでした。

総則

  • 四宮和夫「⺠法総則」

  • ⼤学1年⽣の⺠法総則は鎌⽥薫先⽣の講義だったのですが、その講義で指定されたテキストでした。当時は新版を使っていました。

担保物権法

  • 近江幸治「担保物権法」

  • 当時流行りだしていた図入りの書籍でした。

不法行為

  • 幾代通「不法⾏為」

  • 星野概論には事務管理‧不当利得‧不法⾏為がなかったので、不法⾏為はこの本を使いました。

家族法

  • ⽯川利夫「家族法講義」

  • これも⼤学1年⽣の時の指定テキストでした。

参考書

  • 判例百選

  • 定番。当時は第⼆版でした。家族法は第三版。

ほかに参考書としてつまみ食い的に参考にしたものは、我妻栄「民法講義」シリーズ、有斐閣双書「民法」シリーズ、四宮和夫「事務管理・不当利得」、平井宜雄「債権総論」でした。

刑法

  • ⼤塚仁「刑法概説」

  • 使⽤していた当時は新版でした。

  • 他に選択肢としては、団藤刑法、平野刑法がありましたが、行為無価値論で新しいものとして大塚刑法を選択しました。

  • 判例百選

  • 当時使⽤していたのは第⼆版でした。

商法

  • 当時、論⽂式は会社法から1問、⼿形⼩切⼿法から1問でした。

  • 鈴⽊⽵雄‧⽵内昭夫「会社法」(法律学全集)

  • 当時、弘⽂堂のものよりも新しく、注も充実していました。会社法は改正が頻繁なので最新のものを使う必要があります。

  • 会社法の選択肢としては、ほぼ鈴木・弘⽂堂の一択だったと思います。

  • 前⽥庸「⼿形法‧⼩切⼿法⼊⾨」

  • 有斐閣の法学教室に連載されていたものをまとめたものです。受験では創造説有因論をとったので、前⽥先⽣の本を使いました。

  • 交付契約説をとる人は、有斐閣双書がスタンダードだったと思います。

  • 現在の実務では約束⼿形の使⽤頻度がめっきり減ってしまいましたし、もう不要のものになりつつあります。

  • 中村真澄、酒巻俊雄ほか「商法総則‧商⾏為法100講」

  • ⼤学で指定されたテキストだったという記憶です。

  • 判例百選

  • 会社法は当時「会社判例百選」であり、第四版でした。⼿形⼩切⼿判例百選は第三版、商法(総則‧商⾏為法)は第⼆版?でした。

刑事訴訟法

  • 当時、訴訟法は⺠事訴訟法と刑事訴訟法からどちらかを選択することになっていました。

  • 裁判所職員総合研修所「刑事訴訟法講義案」

  • 当時は法曹会から出版されていて第三版でした。裁判所書記官の研修⽤に作られたもので、とても使いやすいものでした。ただ、捜査の部分が不⼗分であり、判例百選で補う必要がありました。

  • 他の選択肢としては、団藤「刑事訴訟法」、平野龍一「刑事訴訟法」、松尾浩也「刑事訴訟法」がありましたが、団藤刑訴は古いと言われ、刑法で結果無価値論をとっている平野刑訴は刑法との整合性がなく、松尾刑訴は完結していない、などと言われ、刑訴の基本書選択は難しいと言われていました。

  • ⽥宮裕「刑事訴訟法⼊⾨」

  • 当時、法学教室の連載に⽥宮先⽣の演習があったのですが、まとまったものはこれしか⾒つかりませんでした。

  • 判例百選

  • 当時使⽤していたのは第五版でした。

刑事政策

  • 法律選択科⽬はもう⼀つの訴訟法、⾏政法、破産法、労働法、国際公法、国際私法からの選択で、刑事政策を選択しました。

  • 基本書はなく、参考書として以下の本を使いました。

  • ただ犯罪⽩書は必須でした。当時は書籍のものを購⼊しましたが、現在は法務省のホームページで⾒ることができます。

  • 森下忠「刑事政策⼤綱」

  • 当時は初版で、ⅠとⅡの分冊でした。

  • 刑事政策の他の選択肢としては、藤本哲也「刑事政策概論」があり、こちらを選択する人が多かったと思います。

しかし、実は、刑事政策は、早稲田司法試験セミナーの小塚先生の講義テープで十分でした。当時は確か書籍としては出ていなかったという記憶です。講義テープに犯罪白書を加えて過去問をつぶせば、それでノートが出来上がってしまいました。

政治学

  • 教養選択科⽬は政治学、経済原論、財政学、会計学、⼼理学、経済政策、社会政策からの選択で、政治学を選択しました。

  • 阿部⿑「政治学⼊⾨」

  • 現在は岩波書店から出ているようですが、当時は放送⼤学のテキストでした。

  • 薄い本でしたが、この本だけで論⽂式も⼝述式も⼗分に乗り切ることができました。


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