連続小説MIA (52) | Chapter Ⅲ

彼の名前はサルーと言った。サルーはよく日に焼けていて長身の体はより一層細長く見えた。鼻が大きいことを除けば端正な顔立ちの若者だったが、人を見つめる時の眼差しには粘りつくような冷淡さが見え隠れする。晶馬はすこし彼と距離を取っていた。だからこそ、サルーに話しかけられたことには驚いていた。「俺さ、カナダに彼女がいるんだよ。俺は彼女のことが好きなんだけど、たぶん彼女には好きな男がいるんだよね」彼は突如として語りだす。「俺の前に付き合ってたやつで、ひどいやつなんだ。泣かせてばっかでさ。それで俺が話を聞いてて、別れるように言ってやったんだよ。だって、彼女はあいつに尽くしてるのに、それに答えてやらないのは、なんかいやだろ？もっと大事にしてやるべきなんだよ」人と人とが初めて会話をする時、ある種の緊張を含んでいる。相手がどんな人かわからないうちは、尚更である。だから僕は彼の話を静かに聞いていた。サルーは話を続けた、「俺は、その男のこともよく知ってるんだよ。幼馴染みみたいなものでね。小さい頃は、よく3人で遊んだんだ。あるとき、3人で川に行ってさ。石を投げて、水面を何回跳ねるか競い合っててさ。そいつが一番上手くて、彼女が一番下手だった。それで、彼女は、そいつに投げ方を教わってたんだよ、そんな二人を見てるとなんかムカムカしてきてさ。ふざけたつもりで俺、そいつにぶつかりに行ったんだよ。そしたら、そいつちょっとよろけてさ、その拍子で彼女の被ってた帽子が川に流れてしまって」サルーは流れていく帽子を取るべく、手ごろな棒を探すためにその場を離れた。そして、手頃な棒を見つけて岸辺に戻った時には、すでに帽子は彼女が持っていた。「あいつは服をびしょびしょに濡らして岸から上がってくるところだった。俺さ、思うんだよ。そういうの、俺にはできないな、って。棒を拾って戻ったきた時、なんで俺が返ってくるまで待てなかったんだよって、正直いうと胸糞が悪かった。でも、あいつのしたことの方が正しかったんだと思う。手をこまねいて待っていても帽子は流されていくばかりだからね」サルーは話し終わると、照れ隠しのように煙草に火をつけた。サルーもまた悪いやつではないんだろうなと思った。思うに、彼は面倒見がよくて、仲間からも好かれている。人のために動いているものの、つい自分よりも周りを持ち上げて、自分は引っ込んでしまう。そして簡単に境界線を超えていく友人を羨ましく思っている。晶馬はただ「そうだね」と言った。歳を重ねると、また違った価値観に変わったりするのだろうか。冷静な彼と思い切った行動ができる友人を足して２で割った性格であれば…というところまで考えてやめた。そんなに簡単な話ではない、と思い直したのだ。様々な事柄にはたいてい表と裏があり、その中間を取ることが正解とは限らないのだ。

つづく（※平日の正午ごろに連載を更新します）

His name was Saroo. Saroo was well tanned, and his tall body looked even more slender. Apart from his large nose, he was a young man with a neat face, but his gaze had a persistent coldness to it. Shoma was a little distant from him. That is why he was surprised when Saroo spoke to him. I have a girlfriend in Canada. I like her, but she probably has a guy she likes," he suddenly said. He is a terrible guy. He made her cry all the time. I listened to her and told her to break up with him. I told him to break up with her, because she's doing so much for him, and it doesn't feel right not to respond to that, you know? When people have a conversation for the first time, it involves a certain amount of tension. When people have a conversation for the first time, there is a certain amount of tension involved, especially if you don't know what kind of person you are talking to. So I listened to him quietly. Saroo continued, "I know the man well, too. He's a childhood friend of mine. When I was little, the three of us used to play together. One time, the three of us went to the river. We were throwing rocks and competing with each other to see how many times we could bounce off the water. He was the best and she was the worst. And she was learning how to throw from him, and watching the two of them was making me sick. I went to hit him as a joke. Then the guy stumbled a little bit, and her hat ended up in the river. When she found a reasonable stick and returned to the shore, the hat was already in her possession. He was coming up from the shore with his clothes soaking wet. I think, 'You know, I can't do that. When he came back with the stick, I was disgusted, to tell you the truth, because why didn't he wait for me to come back? But I think he was right. I'm not a bad guy either," he said, lighting a cigarette to hide his embarrassment. I thought to myself, "Saroo is not a bad guy either. He is well taken care of and well liked by his peers, I think. Although he works for the good of others, he ends up lifting those around him above himself and pulling himself back. And he envies his friends who cross boundaries easily. Shoma just said, "I guess so. I wonder if he will change his values differently as he gets older. I stopped to think about it, to the point where I wondered if I had the personality of a cool-headed guy and a friend who could take drastic action, added together and divided by two.... Then I thought again, "It's not that simple. There are always two sides to everything, and taking the middle ground is not always the right answer.

To be continued (*The series will be updated around noon on weekdays)