梅ちゃん先生に出演した時のはなし

僕のはじめてのTVドラマ出演は、朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』です。おそらく、初めてドラマに出たのが朝ドラという人はなかなか珍しいのではないでしょうか。あれは確か二つ目になって1年くらいでしたかね。朝ドラのナレーションをウチの師匠がやることになって、それが『梅ちゃん先生』だったんです。落語家が朝ドラのナレーションをやったのはその時が初めてだったそうで、師匠も喜んでいたんですけど、僕も朝ドラは大好きだったので毎日観てました。

そしたら、たまたまお声がかかって出られることになったんです。そりゃあもう天にも昇る気持ちでした。しかも、台詞だってあるってんですよ。ドラマは初だし、そもそも演技も初。それがいきなり全国放送の、NHKの、しかも朝ドラですよ。ラッキーでしたね。簡単に言えば、師匠のバーターというやつですけど、バーターだろうがマーガリンだろうが、朝ドラに出られるならこんなに嬉しいことはない。そう思っていました。

一緒に出たのは、兄弟子のたこ蔵兄さん。NHKの稽古場に行ってまずは打ち合わせ。と言ったって、僕らのためにやってるわけではない。その時初めて知ったんですけど、朝ドラって綿密に打ち合わせをしているんです。僕のイメージでは台本を渡されて、覚えて現場に行ったら、「はい。本番。」みたいな感じで撮ると思ってたんですけど、実際は全く違います。

今は変わったかもしれませんが、その時は週の前半の４日くらいは打ち合わせ、残りの３日は撮影。打ち合わせったってスタッフだけでやるわけじゃ無い。出る演者は基本的に仕事がなければ参加しています。なので主役の方は殆どのシーンに出るので、毎日毎日打ち合わせと本番を繰り返すんです。すごいと思いましたね。打ち合わせも、一回読み合わせをして、そのあと机とか椅子とか並べて、擬似的にセットのイメージをして、少し立ちでリハーサルをする。こんなことを週の半分やって、スタジオに入っても、カメラリハとかをやるので、本番を撮るまでにとても時間がかかります。

そういう現場を見られたのも、とても勉強になりました。それ以降、朝ドラとか大河を見る目が変わりましたからね。だけど、そういう苦労がテレビに映らないのがやっぱりプロです。

それと、これは別に比較したわけでは無いんですけど、NHKのセットの凄さに驚きました。スタジオに街でも廃墟でも何でも作っちゃうんです。だから、ほとんどのシーンがスタジオで完結できちゃう。技術力の凄さを感じました。

さて、僕の役ですがこれはたこ蔵兄さんと二人コンビでやりました。電気屋の役です。梅ちゃん先生は、主人公が当時は珍しかった女性医師を目指すお話ですが、主演は堀北真希さん。相手役は、松坂桃李さん。他にも、今は色々な作品に出るようになった木村文乃さんや滝藤賢一さん。個人的に嬉しかった倍賞美津子さんや南果歩さんやら錚々たるメンバーが出演していました。

この梅ちゃん役の堀北真希さんらがいつも行く近所の定食屋があるんです。滝藤賢一さんと岩崎ひろみさんが営む「三上食堂」です。夫の滝藤さんはここにテレビを置いて客を集めようとしている、だけど妻の岩崎さんは味で勝負したいからそんなものは置く気はない。そんな構図だったと思います。

そして事件は起きます。滝藤さん役の主人がテレビを勝手に注文してしまうんですね。

さあ、僕らの出番です。電気屋の二人はそんな揉め事が起きているとも知りませんので、道々尋ねながら三上食堂を目指すわけです。道を尋ねると言っても、梅ちゃんに聞くだけです。なので、僕らが初めて芝居をした相手は堀北真希さんです。あちゃあですね。人生初演技が堀北真希さんですよ。大根役者だと思ったでしょうね。「み、み、三上食堂ってのは知ってるかい？」なんて声がうわずっちゃいましたよ。

かくして三上食堂に辿り着くわけですが、案の定夫婦は揉めてしまい、妻役の岩崎さんが家を出て行ったりと、ひっちゃかめっちゃかになる場面です。僕らは、ただ配達に来ただけなのに、目の前で夫婦喧嘩が始まって、ひたすらあたふたするだけなんですが、とても楽しかったです。

落語とは全く違う。演技をするということにとても魅了されて、それからこういうお芝居に興味を持つようになりました。

放送日が、8月15日と16日の二日間。なんと僕らが出たあの夫婦喧嘩のシーンは、良いところで次の日に持ち越しとなったんで、二日間も出られたんです。しかも、15日は終戦の日ですから、朝は大体みんな家にいるので視聴率も良く、いろんな仲間から「見たよ。」と言ってもらえました。まず、朝ドラをこんなにみんな見ていることに驚きましたね。

そんな、「梅ちゃん先生」の想い出でした。

最後にその電気屋をやった時の写真です。