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落語家の着物事情

落語家は着物をユニフォームとして着ています。普段着から着物の人は全体の2、3%でしょうか。そういう意味でも着物はやっぱり高座で着るユニフォームです。

寄席なら15分くらい、独演会なら数時間、お客様の前で見せているだけです。でもだからこそ、気を遣うのが着物です。気を遣い過ぎもいけませんが、無頓着もいけません。程よく着物と付き合いたいですね。

基本セット

着物の基本セットは、長着(これ自体を着物とも言う)、羽織、帯の三点セットです。それに付随して羽織紐と長襦袢の襟で色をアレンジします。

着物と羽織を選んだら帯と羽織紐を選んで、最後に長襦袢を選ぶという形です。

黒羽織は色々な着物に合わせやすい

本来の着物の季節

着物は大きく分けて夏物冬物と分かれています。7、8月は夏物(薄物)でそれ以外は冬物です。ただし、冬物と言っても実際は6月と9月は単(ひとえ)という裏地のない着物を着て、10月から5月は袷(あわせ)という裏地のあるものを着ます。これが本来の着物の着方ですね。

ただ、実際はこれに従っていない場合が多いです。夏物を7、8月だけ着る人は少ないし、単を6、9月の2ヶ月だけしか着ないという人も少ないです。ではどうして落語家はそうするのか。これは最初に述べた「着物がユニフォーム」というのが大きく関わってくると思います。

季節感は日々変わる

まず、季節についてですが、これは今と昔とではずいぶん変わってきていると思います。日本には四季があり、気温や湿度が移り変わって行きますが、以前に比べたら夏が長くなっているように感じます。7、8月だけ暑いなんてことはありません。5月くらいから暖かくなって来て、9月いっぱいは夏っぽい気温だったりします。なので、夏物を着るのは早い人で5月のGWくらいから、9月いっぱいまでという5か月くらいのスパンで人によって長かったり短かったりします。

わたしは6月くらいから着て、9月上旬くらいまで夏物を着ていると思います。

こだわる方は帯も夏の帯を締めたり、袴も夏物を持っていたりします。

今は空調のおかげで快適

では冬物である単と袷ですが、今はほとんどの人が夏以外は単を着用していると思います。その大きな理由の一つに、空調が効いていて冬でも屋内にいれば温かく過ごせるということがあります。「着物はユニフォーム」と言ったように、基本的には外では着ませんので、中で着ることを想定しています。その屋内が今は結構快適です。たまに、学校の体育館や古いお寺だったり、空調のないところでやると、「本当はこの温度なんだよな」なんていう時もありますが、ほとんどの場合快適な温度で過ごせます。なので、わざわざ袷を着る必要がないんですね。

噺家御用達の東レシルック

もう一つ、袷を着ない理由の一つに、正絹の着物をあまり着なくなっているという現状もあるかもしれません。正絹というのは文字通り絹の着物で、家で洗濯は出来ません。季節の変り目などに、専門の洗い屋さんに出したり、使っていない時も陰干ししたりと、少しメンテナンスが大変なんですよね。

そこに彗星の如く現れたのが東レシルックです。これは絹のような肌触りだけで洗濯ができるという別名「洗える最高級」とも言いますが、これを特に若手は着用しています。

値段的にも正絹で仕立てるよりは少しお値打ちなのも人気がある所以です。

この東レシルックで仕立てる場合はほとんど単なので、単の着物が多いのではないかと思います。

正絹しか着ない人

じゃあ、噺家はみんな東レシルックの単ばかりなのかと言うと、そんな子とはありません。ウチの師匠林家正蔵はもちろん正絹しか着ませんし、やはり芸歴30年40年と言われる師匠方は正絹を着ておられます。また、そういう方のお弟子さんは正絹を着ろと言われることもあるようで、若手でも正絹にこだわっている人もいます。

正絹は一度着るとわかりますが、着心地が良いんです。柔らかいので、身体にフィットするんです。つるつるっと身体に馴染んでくれます。東レシルックは確かに絹のような雰囲気を持っていますが、あくまでも「ような」です。やっぱり正絹の肌触りではありません。

はな平の着物

では、わたしはどうしているかというと、たぶん他の方と違うと思いますが。わたしは両方着るんです。正絹も東レシルックも。二つ目になりたての頃は東レシルックが多かったんですが、一度正絹を着るとやっぱり虜になっちゃうんですよね。なので、少しずつ正絹を増やして、今は半々になっています。

いずれは正絹だけにして行きたいなあと思っています。ただ、夏物は一回で汗をかいてしまったりするので、すぐに洗える東レシルックの方が重宝しますね。

今日は噺家の着物事情についてお話しました。まだ着物のことは他にもお話ができそうなので、まとまったらその時に。

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