見出し画像

AI研究者の私がプログラミングのいらないAI構築ツールを開発したかった理由

ヒューマノーム研究所・代表の瀬々です。

当社は、昨年からどなたでもAIを作成できるクラウドツール2種を提供しています。画像・動画を利用する Humanome Eyes と、表データを利用する Humanome CatData(以下、EyesとCatData)という名前です。おかげさまで、あっという間にサービス提供から1年が経ちました。

ご利用頂いている皆様に感謝するとともに、今後も多くの方にAIを作って使う楽しさと便利さを提供できるよう、アップデートを進めていきます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

AI入門とノーコードツール

さて、私は昨年「AIをイチから学ぶ」方々が、ハードルの高い学習過程で挫折していく現状を打破したい、という思いから、ノーコードツールを使った新しい形の教育プランを作りたい、というコラムを投稿しました。

このコラムを投稿してから一年。当社は、中学校・高校・専門学校・大学・大企業・中小企業などなど、年齢も立場もさまざまな受講者の方々を対象に、当社が開発するノーコードツールを使った「プログラミングをしないAI構築セミナー」を実施してきました。

このプログラミングいらずのAI構築セミナーは、受講者の方に概ね高い評価をいただけました。下記のアンケートは、小学校高学年以上であれば理解できる、という方針で実施したウェビナーの結果です。理解に要するハードルを下げることで、結果、子どもたちだけでなく親御さんにもAI構築を楽しんでいただけたようです。

投稿時は、まだまだ仮説の段階であった「数学やプログラミングという専門知識を必要としない教材であれば、挫折することなくAI構築やデータ解析の楽しさや難しさを感じてもらうことができる」という説が証明できつつあるように思います。

2021年7月に実施したAI構築ウェビナーの参加者アンケート抜粋

私は、東京工業大学の准教授、国立産業技術総合研究所・人工知能研究センターの機械学習研究チーム長など、かれこれ20年来、機械学習の手法開発と産学官連携の先頭に立ってきました。AI研究の現場に限れば、ノーコードツールを積極的に利用する必要性はそれほど高くはありません。

こんな経歴の私が、なぜ「プログラミングがいらないAI構築ツール」を開発しようと思いたったのか? その経緯を「ビジネスへノーコードAIツールがもたらす影響」という視点から振り返ります。

AI構築プロジェクトを成功させる3要素

当社が開発する Eyes や CatData には、私と当社がこれまで携わってきたAIプロジェクトの成功体験が詰まっています。

「ノーコード(プログラミング不要の)AI構築ツール」というと「プログラミングができない方でもAIが作れる」という側面が強調されがちですが、「ノーコードありき」ではなく、我々が数々のAI開発プロジェクトを進めるなかから、成功したプロジェクトの共通点を突き詰めた結果、たどり着いたのがノーコードAI構築ツールでした。

AIプロジェクトを成功させるには、数学的知識やプログラミング能力に長けた人材や、予算額の確保などが欠かせない、と一見思われそうですが、実は重視すべきポイントは他にあります。

私は、成功するAI構築プロジェクトの条件として、以下の3要素が必要だと考えています。

  1. 全員参加

  2. 迅速なプロトタイピング

  3. 誰でもアイディアを試せる環境づくり

1. 全員参加

「精度の高いAIを開発したい」という要望を叶えたい時、実際にAIを使う現場の方が導入されるAIの良し悪しをきちんと判断できたり、AIを開発する側が使われる現場の問題点を理解していたりすることがとても大切です。

例えば、お菓子のクッキーを焼き、そのクッキーを販売することを目的として、クッキーが壊れているかどうかを判定するAIを開発するとします。私なら「食べられるから大丈夫!おいしそう!」と思う個体も、お菓子作りのプロがチェックした場合「小さなヒビが入っているので、これはお客様には提供できない」という判断になります。

作る側と利用する側の判断基準がずれていれば、構築されたAIの判断基準もずれます。判断基準のずれたAIは現場で使い物になりません。このようなずれ幅をできるだけ小さくするには、全員参加でAIを作ることが欠かせません。

そして、AIプロジェクトへの全員参加を促すために必要となるものが「可視化」です。開発者側が数字や数理的なロジックのみで話を進めても、また、現場の方の直感で判断をしても、互いの理解は進みません。データや結果をグラフを用いて可視化することで、互いの言語化が進み、理解が深まります。

Eyes も CatData も、AIツールにありがちな「精度表示」だけでなく、その精度を示すためにどのような要素が影響したのか?を読み解く図表を多く提供しています。これは、関係者全員による可視化・言語化・ディスカッションを促すためです。

2. 迅速なプロトタイピング

AI構築プロジェクトでは、いきなり実用性のあるモデルが構築できて、高い精度が出て、サービス化に繋がる・・・、などということはごく稀です。初期段階では「精度80%が目標でしたが、65%しか達成出来ませんでした」という場合も多いものです。

このイマイチな結果を踏まえ、「その精度なら、データのセグメント(男女や年代など)を分けて解析しよう」「データを増やしてAIをもう一度学習させてみよう」と、当初に立てた解決したい目標や設定を少しずつ変更しながら、最終的なゴールへ近づいていくようなイメージで開発は進んでいきます。

この何通りも試していく「正解へつながる道筋」を、素早く何度も考えられる環境があると、プロジェクトが成功に近づきます。

ITシステムの構築は、仕様を設計してそれぞれのパーツを作成し、その後、パーツを組み上げて全体が完成する、という一本道の開発が多いです。しかし、AIシステムの構築は、上記の様に、学習の方法やデータの変更を何度も繰り返して進みます。そのため、毎回の解析に時間をかけると、プロジェクト全体が遅延し、プロジェクトが頓挫する原因になります。

ノーコードAI構築ツールは、特に仕事が集中しがち(=時間がかかりがち)なAIエンジニアのプログラミングの仕事を、エンジニアに依存せず実行できるツールです。エンジニア以外の人がプロトタイプをさっと作成し、その結果を確認した上で次の方策を打ち出すことができます。

構築が進むにつれ、ツールだけではカバー出来ないところが出てくることもあります。このような専門的な知識を要する箇所については、どうしてもAIエンジニアの力に頼らざるを得ません。しかし、その頃にはデータやAIモデルに対する理解が既にチーム内で広がっているため、AIエンジニアが難所を乗り越えやすい環境ができあがっています。

3. 誰でもアイディアが試せる環境づくり

用意されたデータを果たしてAIが学べるのか?という質問に対しての回答には、ある程度の準備が必要です。まずAIが学べる状態のデータを集め、その後AIモデルの学習を進めるまでは、判断が難しいことが多いです。

とはいえ、できるかどうか分からない開発に向けた準備段階で、写真を1000枚用意してほしいとか、1万人分のデータを用意してほしい、と言われても、既にデータがある組織ならまだしも、これからデータを集めようと考えている新規プロジェクトでは、まずこの要望は承認されにくいでしょう。

そこで、例えば写真30枚とか、30人分とかの少ないデータ量でもAIを作って試せる環境があれば、実施しようと考えているプロジェクトを個人の思いつきレベルでスタートし、うまくいきそうであれば大規模化・チーム化していく、という方法が取れるのではないかと考えました。

スモールスタートできることは、AIに限らずIT・DX関連のプロジェクトを成功に導く重要な要素です。Eyes も CatData も、小規模データであれば無料で利用できるようにしているのですが、その理由としてこのような背景がありました。

巻き込んで、解決力を広げるツール

このように、ノーコードAI構築ツールは、単に知識がない方がAIを作るためだけの道具ではありません。AI開発に外せない登場人物を巻き込み、その結果をみんなで確認する環境を作るツールです。

EyesやCatDataを開発しようと思い立った理由は、これまでAI開発をしたことがなかったり、過去に開発が失敗してしまった組織でも、この環境を用意することで開発を成功まで導くことができ、将来的にAIの便利さが広く世界に広まるようになる、と考えたからです。

この一年だけでも、さまざまなノーコードAI構築ツールが出てきました。その世界観はノーコードAI構築ツール、という総称でひとくくりにはできず、目指す未来はそれぞれ異なると感じています。

当社のツールは「できるから作った」ではなく、我々の世界観である「AIは作る人も使う人も一緒になって育てるもの。AIはみんなの幸せに貢献できるもの。」という思想を込めて開発しています。

AIという分野がこれからも発展していくためには、もっとこの技術が広く使われる様になることが必要不可欠です。ぜひ、AIを育て、使って、今よりも楽しい未来を作ってみて下さい。

---

AI・DX・データサイエンスについてのご質問・共同研究等についてはお気軽にお問い合わせ下さい!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?