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不登校・ひきこもりのプロセス(後編)

一進一退で良いわけ

 さて、この図をご覧になった親御さんは「どうしたら2.の時期を短縮できるだろうか・・・」とお考えになるのではないでしょうか。

 確かに、低い位置で横に伸びている線は、望ましくない状態であるかのような印象を与えてしまいます。

 しかしこの時期、本人は決して何の努力もせず、状態も百年一日のごとく変わらない、というわけではありません。

 本人がはた目からは変わらないように見えても、その言動には一進一退の変化があり、なおかつ長い目で見れば確実に前進しているのです。

 したがって、実際には「2.の時期の後半~3.の時期」を、波の上下を繰り返しながら全体として右上がりになるように描かれている図もありますし、私も講演のレジュメにはそういう図を描いています。

 ただし、本人が発達や精神に障碍を抱えていて、それが状態に大きく影響している場合には、そちらの要因を手当てしないとなかなか右上がりにはなりません。

 そうではない一般の不登校/ひきこもり状態では、右上がりになりますが、その角度は次のような要因が押し上げたり押し下げたりします。

角度はどんな要因で変わるか

 まず個人の要因として、自己否定感(罪悪感や負い目など)の強さ、本人や家族の価値観やタイプ(柔軟性や性格)、などがあります。

 たとえば、本人の自己否定感が強ければ角度は押し下げられ、弱ければ押し上げられます。また、本人や家族が常識的な価値観を頑強に持ち続けていれば、やはり角度は押し下げられます。

 次に環境の要因として、人的要因(理解者や気にしない人の有無)、支援要因(適切な対応の量や支援との相性や心の支えになる社会資源の有無)、社会的要因(地域性や時代や社会通念)、などがあります。

 たとえば、本人の周囲に理解者や気にしないでつきあってくれる人が多いほど角度は押し上げられますし、周囲の対応が不適切だったり支援が本人に合わなかったりすれば角度は押し下げられます。

 このように、不登校/ひきこもり状態の期間は、右上がりの線の角度が押し上げられる(急角度で上昇する)ほど短くなり、押し下げられる(ゆるやかな角度で上昇する)ほど長くなるわけです。

心のエネルギーが状態を押し上げる

 では、状態(エネルギー)の波が上下を繰り返しながらも全体として右上がりになるのは、なぜでしょうか。

 それは、一般に増えるエネルギーの量より減るエネルギーの量のほうが少ないからです。そのため、エネルギーは増えたり減ったりしながらも、差し引きしたら増えていっている、ということになります。

 お金にたとえると「収入>支出」だから「貯蓄が増えていく」というイメージです。

 したがって、状態の波も上昇する幅より下降する幅のほうが小さく、その結果全体として右上がりになっていくわけです。

 このようにして本人の状態は少しずつ良くなり、いずれ人の輪に入ったり支援を受けたりできるようになるのですが、そうなる直前の段階まできた本人のなかに、そこで足踏みしてしまう人が少なくないことがわかってきました。

 そこで次回は、その点をご説明したうえで、右上がりの線の角度を押し上げることに役立つ、本人への見方や対応のあり方をお話しします。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第206号(2014年6月18日)

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※この文章を書いたのは相談業務に専念するようになってから11年余りのときでした。その2,3年前から「うまく行った場合における状態のプロセス」「そのプロセスに沿った対応」に確信が持てるようになり、以来私は相談や家族会、講演などで「状態グラフ」と称する図をレジュメに掲載したりホワイトボードに書いたりして説明しています。カバー画像に写っているのは、ひきこもり家族会で講演する際にレジュメに掲載したその図です。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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