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親と子、三つの食い違い(後編)

親の愛がわからない?

 第二に、わが子から対応の仕方を責められると、自分の愛情を否定されたように感じる親御さんがおられる、という点です。

 このことは、私も不登校時代に親との間で起きていたことなのですが「登校刺激をされたらますます学校に行けなくなる」とか「あのときこうしてくれていたら自分の歩みは違っていた」などというわが子からの抗議や恨み言を聞いたとき、親御さんは「良かれと思って/一所懸命やっていたのに」「親心がわかってない」「親の愛が感じられない心貧しいやつだ」などと失望したり不信感を強めたりする方がおられます。

 しかし、本人にしてみれば、おそらくこういうことです。

 「自分はAという薬が有効な病気になった。それなのにBという薬を処方され、服用してますます悪化してしまった」
 この場合、患者はBという薬を処方した医師に抗議しないでしょうか。

 本人は、親の愛情の有無ではなく対応の適否を問題にしているのです。なぜなら、親の対応の発露たる「気持ちや愛情」を慮(おもんぱか)りながら話す心の余裕などないからです。自分のことで精いっぱいの本人が「自分への理解にもとづいて対応してくれ」「適切な対応をしてくれ」と要望している、ということです。医師に「正しい治療をしてくれ」と要望しているのと同じなのです。

追いつめたら動き出す?

 第三に、親御さんは往々にして「わが子は追いつめたら動き出す」と思いがちだ、ということです。

 おとなのひきこもり状態への対応について、世間ではよく「親が叩き出せばいいんだ」「食事やお金を与えなければ自分で稼がざるをえなくなる」などと言われます。“力の論理”“兵糧攻めの論理”です。

 そこまでいかなくても、たとえば家計について「あと〇年でこんなに苦しくなる」と数字を突き付け、見通しの暗さを強調してわが子を動き出させたい、とおっしゃる親御さんがおられます。

 ひきこもり状態の特徴的心理のひとつとして「焦りやプレッシャーで動けない」というものがあります。前述の親御さんのお考えは、まさに本人にプレッシャーをかける方法ですから、それで動けるようになるより、ますます動けなくなる可能性のほうが大きいと考えられます。

 では、家計について本人にどのように伝えたらいいのでしょうか。

不安より安心を与える

 まず目的です。前述のように「本人を動かすため」では逆効果になるリスクがあります。そうではなく「先の生活の見通しを明らかにし、家族みんなで将来設計を立てるため」という、どこの家族でもやっているのと同じ目的でやればいいのです。

 次に伝え方です。前述のように「あと〇年でこんなに苦しくなる」という伝え方では、多くの場合本人は心理的に追いつめられるばかりです。そうではなく「あと〇年でこういう状況になるので、こう対応すればこのくらいの生活ができる」という伝え方をすることです。

 実際、ファイナンシャルプランナーらによる家計見通しとアドバイスを受けた本人が、安心してアルバイトを始めた、という話を聞いたことがあります。

 「不安」よりも「安心」を与えることの大切さがわかります。

 いかがでしょうか。次回は関係者を含めた「本人との食い違い」について、さらに深いお話をさせていただきます。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第228号(2018年2月7日)

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※新年のご挨拶を申し上げます。いよいよこの転載企画もあと3か月。まずはすれ違いをテーマに書いた文章から今年の転載がスタートしました。引き続きご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

※この文章は、冒頭に書いたように多くの親御さんとお話しした経験にもとづいています。指摘した3点のいずれかに心当たりのある親御さんが参考にしていただければ幸いです。

※このメルマガバックナンバー掲載文、文中で引用した172号を含め拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

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※ひきこもり支援団体「OSDよりそいネットワーク」が、助成金を得て実施している親御さん向けの連続動画学習会(全12回)の第9回で行った私のミニ講演が、12月21日から公開されています。再来週に転載するメルマガ230号の文章を読み上げて終わる、という特徴的な内容です。ご関心の方は ↓ の公式ブログ記事をご覧のうえ、末尾にリンクした案内ページから動画をご視聴ください。


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