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“負け癖”のメカニズム(後編)

三重の傷や疲労の果てに

 15年前に配信したメルマガ141号の掲載文で私は、不登校/ひきこもり状態の人の多くに共通する心理過程として、まず「きっかけになった出来事で傷つきあるいは疲れて」、次に「学校や社会に出られなくなった自分の状態に傷つきあるいは疲れる」という「二重の傷や疲労を招く現象」である、と指摘しました。

 私はその後、その次に起こることとして「焦って学校や社会に戻ろうと意識または努力するが<焦る→意識する→実行できない→焦る→(以下繰り返し)>または<焦る→努力する→失敗する→焦る→(以下繰り返し)>の悪循環にはまって、どうにもならなくなったことに傷つきあるいは疲れる」を加え「三重の傷や疲労を招く現象」である、と講演などでお話しするようになっています。

 つまり、不登校/ひきこもり状態の多くは、始まってから数か月という初期のうちに学校/社会に出られなくなって(=「負けが込んで」)いき、しかも三重の傷や疲労によって「自分はどうあがいても学校/社会に戻れない」「自分はダメ人間だ」という無力感や自己否定感が強くなり、学校/社会復帰への意欲が減退して(=「負け癖がつ」いて)しまった、と表現することができます。

 ところで、心理学で似たような言葉に「学習性無力感」があります。
 回避できないストレス経験が繰り返されると「このストレス環境から逃れることは不可能だ」と学習してしまい、ストレス環境から逃れる方法を探さず、あっても信じなくなる、という心理メカニズムです。

 この言葉を使って表現すれば、本人の多くは「三重の傷や疲労」によって「学校/社会復帰しようと意識/努力しても傷ついたり疲れたりするから、意識/努力しないほうがまし」という学習性無力感にも似た感覚を抱えている、と推測できるわけです。

 “グレー思考” で楽になる

 では、このような心理状態から抜け出すにはどうしたらよいのでしょうか。

 もうお気づきかと思いますが、そもそも人生は勝負の世界とは違います。ですから、勝負の世界と同じような思考をやめることです。
 すなわち「学校/社会に出るか出ないか」の “白黒思考” から「どう生活するか」という “グレー思考” に切り替えるのです。

 親御さんの多くは、本人に「登校する」「勉強する」「就労をめざして支援を受ける」などといった行動を望んでおられることでしょう。
 そしてそれ以外の行動には「登校するまでの通過点としてなら良い」「社会復帰の妨げになるから認めない」などと、条件をつけたり止めさせようとしたりしておられることでしょう。

 でも、そのように本人の行動を分けて差をつけているかぎり “白黒思考” を止めることはできず、一喜一憂する毎日は終わりません。
  “グレー思考” とは、行動のすべてを分け隔てなく認める、言い換えればすべて等価値だと位置づける、という考え方です。

 そうすれば「学校を休んだけど○○をやった」「家にいるけど○○はやっている」などという見方になります。不登校状態で登校する場合なら「1日行こうが2時限目から行こうが早退しようが休もうが、すべて本人が決める/決めたこと」と割り切るのです。

 毎日毎日このような見方をなさってみてはいかがでしょうか。きっと親子ともども楽になると思います。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第243号(2020年8月8日)

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※「相談や家族会でお話をうかがいながら感じていたことを、またひとつ文章化した」というものです。ご家族には耐えがたい不登校/ひきこもり状態も、このように見ることができれば違ってくるのではないでしょうか。

※さて、メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ』の掲載文のうち100本を毎週1本ずつ転載してきたこの企画も、今回でゴールを迎えました。フォローしてご愛読くださった150人余りの方、リアクションにより高評価をくださった方、サポートしてご支援くださった方、ご意見ご感想をお寄せくださった方、皆様が力を与えてくださいました。心からお礼申し上げます。

※このメルマガバックナンバー掲載文、後編で引用した141号の掲載文をはじめ拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

※この文章でメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。今月号は今回のような文章を掲載する順番で、あさって配信予定です。

※来たる4月23日(土)、家族会「しゃべるの会・ひきこもり編」を会場とZOOMの併用で開催します。ひきこもり状態にあるおとなの方のご家族は ↓ の公式ブログ記事をご覧のうえ、よろしければご参加ください。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。