日にち薬を服用しよう(後編)
感じたこと考えたことも大事な経験
ほかの同世代と同様、本人たちも経験を積み重ねています。もちろん、行動範囲が狭く頭の中でのことが多いことは否めませんが、その代わり一般の同世代がやらないこと感じないこと(一般の同世代とは違う経験)がたくさんある、ということも言えるわけです。
さらに、学校の年間スケジュールや出来事、あるいは長い間には1度や2度は起こる家族の大きな変化や出来事など、不登校/ひきこもり状態にある
人の心を揺さぶり、あれこれ感じ考えさせる外的要因もあります。
そんな本人たちが、親御さんをはじめとする周囲の人々の適切な対応によ
って支えられていれば、本人たちの経験は着実に定着していき、動き出すた
めのエネルギーとして蓄積されていきます。
こうやって日々本人たちは経験を積み重ねているのに、価値観の作り替え
が起こらず、自己否定感に陥ったり視野や世界が狭かったり、心が傷ついたり自信や元気が失われたり、といったマイナスの状態が何年も固定化したまま、あるいはひどくなる一方、ということがあるでしょうか。
月日が経つにつれて起こる変化
たとえ最初のうち(数年にわたることもありますが)はそうであっても、年を追うごとに本人は自己肯定感が育ち、視野や世界が広がり、傷ついた心が癒され、自信と元気が回復してきます。動き出すためのエネルギーも、月日がたつほど溜まってくるのです。
メルマガ166号で「ボタンのかけ違いとかけ直し」と表現したように、不登校/ひきこもり状態になった当初は、本人も親御さんもどうにかしようともがきますが、たいていうまくいかず、傷つき苦しみ抜きます。
また、その過程で親子が対立の泥沼にはまり込んで“コミュニケーション不能状態”になってしまうことも少なくありません。
そのため、本人は自分の心を休め、親御さんは対応を見直しながら、両者は親子関係を修復していく必要に迫られます。そして、そのことに専念しているうちに、ほんとうに少しずつですが、本人に上記のような変化が見られるようになり、さらに親子関係も修復されてくるのです。
日にち薬はじわじわと
以上のように、心が癒され、元気や自信が回復し、周囲の人との関係が改善し、視野や世界が広がり、自己肯定感が育ち、エネルギーが蓄積することを「歳月」が可能にするわけです。
このような観点から歳月を表現した「日にち薬(日薬=ひぐすり)」という言葉をご存じの方がいらっしゃると思います。
日がたつにつれ苦しみ悲しみが和らいでいくことのたとえ、すなわち「歳月こそ薬」という意味です。ここでは「心と人間関係の修復やエネルギーの蓄積を助ける作用のある薬」と意訳したいと思います。
特別な治療や支援を施さなくても、日にち薬を服用する(=気長に対応していく)ことによって、このようなプラスの変化が自然にゆっくりと表れてきます。しかも実際の薬とは違って、この“薬”には“副作用(=性急な対応による大揺れ)”の心配がありません。本人は小さく揺れながらも、着実に前進しステップアップしていくわけです。
ぜひ、今年1年服用してみてください。次の年明けが、今年までのそれとはまったく違うものになるかもしれません。
初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第185号(2011年1月12日)
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※前回に引き続き、年頭にふさわしく長期的対応の心がまえを提案する文章を選びました。もちろん「あえて」と書いたようにケースバイケースであることは大前提ですが、特にひきこもり状態についてよく問題になる「長期化」について「こういう見方もできる」と伝えることでバランスをとってほしい、と願って書いたものです。
※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本は文中で引用した号の掲載文を含めほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。
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