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<あるべき人間像>に追われて(後編)

支援にエネルギーが追いつくか

 では、支援を受けることができるようになる条件は何でしょうか。

 拙著に収録したメルマガ143号で私は「不登校やひきこもりは<活動するエネルギーが低下した状態である」とお話ししました。

 そこで、前回記した表現に戻ると、まず「心の安定」によってエネルギーが回復し、次に「私生活の充実」によってさらにエネルギーが回復したうえで、支援を利用するという「公生活」に踏み出す、というプロセスが最も安全確実だと考えられます。

 その意味では、支援を受けるようになることは、それだけエネルギーが回復してきている証拠だと言えます。ただ、相談したり訪問を受けることより居場所に通うことが、居場所に通うことより再登校支援/就労支援を受けることが、より多くのエネルギーを必要とすることは想像にかたくありません。

 そのため、前回例示した「段階を踏んで順に支援方法をレベルアップしていくシステム」で学校/社会復帰に近づいていくには、支援方法のレベルアップにエネルギーの量が追いついていなければなりません。

 言わば「支援方法のレベルが上がるスピードとよりエネルギーが回復するスピードのほうが早くなければならない」というわけです。

支援を受ける前に必要なこと

 このように、エネルギー回復と支援方法のレベルアップとの間で競争しているような余裕のない状態では「疲れて途切れてはまた受ける」を繰り返す苦しい日々を送ることになりかねません。

 要するに、支援を受けるに見合うだけのエネルギー回復がなければ、本人は支援機関の門をたたくことは難しいし、エネルギーのさらなる回復がなければ、支援を受けても続かなくなる可能性があるわけです。

 結局、支援を受ける「公生活」の前の「心の安定」と「私生活の充実」の段階で、エネルギーがじゅうぶん回復するような本人の行動と周囲の対応が必要不可欠なのです。

 2012年3月に開催した「第18回青少年支援セミナー」では、こうした“支援と本人とのギャップ”をはじめとするさまざまな点について<当事者
の声>をお届けしました。特に、今回ふれた「段階的を踏んでレベルアップさせていく支援」を批判している林恭子氏や就労支援に対して鋭い指摘をしている勝山実氏など3名の不登校・ひきこもり経験者を招いてのパネルトークは、現在盛んに行われている当事者発信の先駆けと言うべき内容でした。 

 次回は、そこに参加していた方のご感想を中心にお送りします。どうぞお楽しみに。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第192号(2012年2月8日)

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※家族や関係者と共通した本人の支援に対する意識を解説した9年前の文章です。支援を受けてうまくいくために意識変革が必要な本人もいるため、必要な家族の対応を提唱しました。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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