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「現状維持」を小目標に(後編)

ここまで到達したことを大切に

 この段階では、ご家族はどうしても「せっかくここまで良くなってきたのに変化が起こらなくなっている」というふうに、否定的に見てしまいがちになります。

 しかし、これは「変化なし」というより「現状維持」という状態と捉えれば、肯定的に見ることができるのではないでしょうか。

 それまでの経過を振り返ってください。良くなったり悪くなったりという状態の波が上下を繰り返すことに一喜一憂なさっていた時期のことを。

 その時期が過ぎ、本人の安定と家族の平和がやってきているのです。

 もちろん、本人の状態が悪い(線の位置が低い)段階は、早く過ぎるに越したことはありません。しかし、状態の線が上下を繰り返しながらも上がっていき、本人が楽になって元気になり、ご家族も楽に本人と接することができるようになった(線の位置が高い)段階、あるいはちょっとやそっとのことでは状態が下がらず、次のステップに向かって着実に歩む段階に到達したのです。

 本人とご家族の私生活が充実した楽しいものになっている、この段階を大切にせず「ここまで来たのだから」と安易に支援の利用を勧めたり学校/社会復帰を強要したりすると、状態が今より悪かった時期に戻って(線の位置が下がって)しまう可能性は、まだゼロではありません。

この段階では現在の対応を続けること

 このように考えると、この段階では「次の段階をめざす」より「その状態を維持する」を目標にしたほうが現実的だと考えられます。

 その目標で対応していると「いつの間にかステップアップしていた」という時期が来ることが少なくありません。特に10代の不登校状態では、それまでの対応を続けているうちに、本人が自然にステップアップすることがよくあります。

 周囲が(多くの場合本人も)気づかないうちに、周囲が感じている以上にエネルギーが回復しているわけです。

 したがって、この段階では常に「現状維持」つまりそれまでの対応を続けることを心がけながら、本人の言動を見計らって「胎動している」と判断できる発言や行動が見られたら初めてそのことを応援する、という対応のあり方が望ましいように思います。

 なお「動き出す前のプラトー現象」のほうでは「ここまで来たら背中を押してあげるべき」という説も多く見られます。その方針で「プラトー現象」の段階を短縮したり防いだりする対応や支援があればそれも選択肢だと思いますし、去年5月19日に転載したメルマガ92号でご紹介した「啐啄(そったく)同時」という言葉もあります。

 私は、本人の生活が楽しく充実したものになるためなら「〇〇してみたら?」などと提案なさることは大いにけっこうだと考えています。

 現状維持をマイナスに捉えることなく、せっかく到達した安定を壊さないつきあい方を続けていきたいものです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第209号(2014年12月10日)

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※この文章を書いた7年前は、前回までに転載した文章に書いた「状態の上下を繰り返す時期からプラトー現象のような時期へ移行するプロセス」が最も多く、それよりは「状態の上下を繰り返す時期とプラトー現象のような時期の間に、奥行きの長い階段のような時期が存在するプロセス」のほうが少ない、と考えていました。しかし現在では、奥行きの長い階段のような時期が同じくらい多く見られると感じています。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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