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動きやすくなることから(後編)

当事者に経済支援を

 第二に、高校以上の世代の場合ですが経済的要因です。

 セミナーのパネルトークでは、勝山実氏が「社会参加費のようなもの」や「敬老パスのひきこもり版」の支給、あるいは「携帯電話の“ひきこもり割引”」の設定を提唱し、当事者が経済支出や情報収集、他人との連絡が自在にできるようになれば、行きたい場所に自由に行けるようになって、前述した意味での「居場所」も受けたい支援も、自分で選んで行くことができて社会参加しやすくなる、と主張しました。

 確かに「交通費がないから行きたいところに行けない」とか「通話料が払えないから携帯電話を持っていない」といったひきこもり状態のおとなは少なくありません。また、親御さんにお金を出してもらえる場合でも「親が気に入らないところには行きづらい」という心理もあるでしょう。このように見れば、本人たちの無力感や意欲減退に、経済面が深く関与していることは容易に想像できます。

支援が受けやすくなるには

 以上、3回にわたって「元気になっても支援を受けられない本人」について、いくつか理由を考えてきました。それを受けて、逆に「支援の受けやすさ」の度合いを判断する目安を挙げてみましょう。

 第一に「心のエネルギーの回復度」です。本人のエネルギーが支援を受けられるほどに回復しているか、支援を受け始めたら、支援方法に見合うだけのエネルギーが回復しているか、によります(もちろん、支援を受けることでエネルギー回復が促進されることもあるでしょう)。

 第二に「支援以外の要因の充実度」です。支援と無関係な「場(各自にとっての居場所)」や「人間関係(理解者や気にせずつきあってくれる人)」や「言葉」がどのくらいあるか、によります。

 第三に、高校世代から上は「本人の経済状態の余裕度」もあります。
 支援の有無に関係なく自らの意思で選んだ場所に、安心して行くことができる経済的環境がどの程度か、によります。

 このように考えると、特に第二第三の目安から「支援を受けやすいかどうか」は「動きやすいかどうか」で決まる、と解釈できます。

 したがって「本人が判断・選択・行動」の自由を自分の内外から獲得して動きやすくなることは、支援を受けることより優先すべき目標だ」と結論づけられるように思います。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第194号(2012年6月13日)

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※本稿は、前回転載した文章で取り上げた「第18回青少年支援セミナー」での登壇者による発言を引用しながらの具体的な提言となっています。「支援=心理面や生活面のサポート」という世間一般のイメージを覆す、当事者経験者ならではの発言をもとに、私が「支援と無関係な場や人間関係や言葉の重要性」という、これまた世間一般のイメージとは違う説を加えた、9年経った今も支援を問い直すのに欠かせない内容だと信じています。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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