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支援を受けることの難しさ(後編)

コースメニュー型か単品メニュー型か

 人と接するのが苦痛な人は、フリースペースをやっている支援機関に入りづらいでしょうし、働くことへの恐怖感を持っている人は「就労支援をやっている支援機関は利用したくない」と思うでしょう。
 その結果、利用できる支援機関が少なくなってしまうわけです。

 事実、官民の多くの支援機関は「相談→訪問支援→フリースペース→学校復帰支援/就労支援」というように支援方法を取り揃え、それを順番に利用していくことによって学校/社会復帰に近づくシステムを採用しています。 まるで“支援のコースメニュー”のようです。

 もちろん、実際には支援方法の順番にはこだわらない支援機関も少なくありません。でも、本人たちはそのようにはイメージできず「いったん利用し始めるとメニューが次々と出てくるような予感がして“支援というテーブル”に着席できないでいる」という印象を受けます。

 そこで、そのような人たちには<コース>ではなく<単品>を出す、という手があります。

 <単品>とは、「○○相談所」「フリースペース○○」など「相談専門」「居場所のみ」というように、単独の支援方法を実践している機関のたとえです。そこは「ここで元気になったら次の段階の支援を受けるべきだ」という方針も雰囲気もなく「ほかの支援方法を求める人には情報提供や紹介をする」というだけにとどまっている場です。

 こうして「段階を踏んで学校/社会復帰に近づいていく」というイメージを払拭し「今の自分に合った支援を受ければよい」と気軽に考えることができるようになれば、支援を受けやすくなるわけです。

非支援の人間関係があるか

 ところが、それでも支援を受けられるようにならない人がたくさんいると予想できます。なぜでしょうか。
 ここではひとつだけ挙げておきます。

 それは「家庭」と「支援機関」以外の人間関係や場が不足していることです。

 たとえば、親戚や隣近所や知り合いのなかに、本人の状態に理解ある人、または本人の状態を気にしないで普通につきあってくれる人がいなかったり「誰でも出入りできて無条件に肯定される場」が地域になかったりする、という現状です。

 逆に、そういう人間関係や場が身近にある人たちは、ない人たちより歩みが早いことを、私は相談業務を通じて実感しています。

 親御さんが親の会に参加して楽になられるように、本人が当事者の会や勉強会やNPO活動に参加するなど、支援によらずに人と出会い自分なりの居場所を見つけることができれば、それだけで楽になりますから支援を受けなくても元気が回復していきます。

 そうなると「支援を受けるかどうか」「どんな場合に受けようか」などと、支援についてかえって冷静に考えられるようになるものです。

 しかし、本人と周囲の多くは「早く支援を受けて復帰すべき」という考えを変えません。それで実際に支援を受けられるのでしょうか。

 来月は、そのあたりから考えていくことにしましょう。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第191号(2011年12月14日)

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※面接相談や家族会や講演の場面で、ホワイトボードに図示して説明することの多い自説のひとつです。執筆当時と違ってここ数年は「心の安定」を「心と体の健康」に変え、「私生活」の例も多彩に挙げるなど、説明が進化しています。

※この文章のもうひとつのポイントは「本人の状態を気にしないで普通につきあってくれる人」や「誰でも出入りできて無条件に肯定される場」の必要性を提言した部分です。前段は「気にしないでつきあう」という点が肝で、今でもあまり言われていないことです。後段は「不登校/ひきこもり状態専用の居場所」ではない点が肝で、近年少しずつ増えています。先日参加したオンライン学習会でも実践している方のお話をうかがいました。

※このメルマガバックナンバー掲載文、冒頭で挙げた号の文章を含め拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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