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「判断」と「自然」のバランスを(後編)

「自然」をどう増やしていくか

 そこで、本人の状態が急降下している初期の段階では「言って/やっていいかどうか」を判断しなければならない部分すなわち「判断」の部分が圧倒的に多く「判断9割、自然1割」のような比率で本人に対応せざるをえないことでしょう。

 たとえば「登校刺激しないようにしよう」とか「愚痴はなるべく聴いてあげよう」などといった「判断」が多く求められるわけです。

 ただ、本人の状態がひとまず落ちついて以降は、時間が経つにつれてその比率は変化していいはずです。つまり「言って/やっていいかどうか」をいちいち判断しないで言える/やれる部分すなわち「自然」の部分が少しずつ増えて「判断」の部分が少しずつ減っていくわけです。

 たとえば「本人がやっているゲームを話題にしても不機嫌になる」という反応であれば、それを控えるという「判断」が必要ですが、話題にしたら応じるようになれば、自然にやってよくなります。この場合「ゲームの話題でおしゃべりすること」が「判断しなければならない部分」から「自然にできる部分」に変わった、と言えます。

 このようにして月日が経つにつれ「1年経ったら判断しなければならない部分と自然にできる部分が半々になっていた」とか「2年経ったら判断3割、自然7割になっていて、本人にここまで言えるようになっていた」という経過になることが多いはずなのです。

「自然」が増えないのはどうしてか

 さて、不登校/ひきこもり状態の初期は「判断9割、自然1割」のような比率で本人に接すべき場合が多いとお話ししました。ところが親御さんのなかには、本人の状態が変化しているのに比率が9対1のまま変わらない方がおられます。おそらく本人の状態が悪化することを恐れるあまり、自然に接する部分を増やすことができないのでしょう。

 しかし、そのようにして腫れ物にさわるような接し方が続くと、本人に「異常視されている」「放っておかれている」と受け取られてしまうことは前回お話ししたとおりです。

 そのような親御さんには、相談や家族会への参加を通じてほかの本人の例を知ることにより、わが子の状態を相対的に理解できるようになっていただきたいと思います。

 なお、前述の親御さんご自身の心理のほかにも、相談している関係者(相談員、カウンセラー、医師など)が“任せる”一辺倒の考え方だったり、発達や精神の障碍の影響が大きいために状態が変化しないから変えようがなかったりする場合は、比率が何年も変わらない要因になります。

 それらの場合は、相談している関係者を変えるなり、医療を利用するなりして現状打開をはかることが必要になります。いずれにしても、常に「幸せな家族生活をめざすために何が必要か」「今の段階で本人が何を求めているか」の2点に立ち返って考えるようにしていれば、自ずと適切な対応が判断できることでしょう。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第218号(2016年6月15日)

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※6~7年前から相談や家族会、講演などでよく使っていたネタ「判断(旧「配慮」)と自然の変化モデル」を初めて文章化したものです。「本人の変化に沿って接し方を変えていく」という長期的なイメージが持てるのではないでしょうか。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

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