見出し画像

相談機関と皆さんの春(後編)

納得できないプロセスは不幸

 とにかく、不登校/ひきこもり状態は、ほんとうに予想もしないプロセス
をたどることが少なくありません。

 10年以上ひきこもっていて、社会参加する兆候をまったく見せなかった若者が突然働き出した例もあります。
 この場合、その人に積極的に介入して連れ出すような支援をしたら、その人はもっと早く働き出したかもしれません。しかし私は、そういうプロセス
に“心のリバウンド”のリスクを感じるわけです。

 すなわち、本人の気持ちを考えますと、不登校/ひきこもり状態が長引い
ても、終わったあとでそのプロセスに本人が納得できれば、その後の人生は幸せになるが、長引かないで終わっても、そのプロセスに本人が納得できなければその後の人生は幸せにならない、ということではないかと思われるのです。

 なぜなら、これまで繰り返しふれているように、不登校/ひきこもり状態
は病気やケガではなく「生きざま」だからです。

元に戻ることが幸せとはかぎらない

 つまり、病気やケガなら、治ることが本人の「納得」「喜び」「幸せ」につながります。本人は、治療を受けて元の健康体に戻ることができれば幸せなわけです。

 ところが、不登校/ひきこもり状態だと「病気やケガが治る」ということ
に相当する結果が何を指すかは、一人ひとり違います。病気やケガの治療に相当する「支援」を受けて元の心理状態に戻ることが、必ずしも本人の「納得」「喜び」「幸せ」につながるとはかぎらないわけです。

 本人が支援を拒んだり支援を受けても長続きしなかったりする背景には、そのような本人の不安や迷いが隠されている場合が少なくないと思います。

 したがって、気持ちが熟成して支援を利用できるようになったということは「その支援を利用したら自分の状態がよくなるかもしれない」という希望が芽生えた、ということでもあるわけです。

年度替わりのこの時期に

 いよいよ今年度(~3月)も大詰めです。進路が決定するなど、冒頭で挙げたようなよい結果が出た本人とご家族、あるいは入学試験などの結果を待っている本人とご家族がいらっしゃる一方で「新年度もこれまでどおりだ」という本人とご家族もいらっしゃることでしょう。

 私もそういう辛い年度替わりを何度も経験してきました。「今年度もだめだった、来年度こそ」という思いをさんざん繰り返した末に「自力ではどうにもならない」と観念したら、大きく変化したわけです。
 それが「気持ちが熟成した」ということだったのかもしれません。

 2月に掲載した文章でお話ししてきたように、支援とは気持ちを熟成させてあげるのではなく、気持ちが熟成しやすい環境をつくることだと思います。そういう支援機関の内容をお調べになり、本人の気持ちが熟成したときに備えながら、本人とともに心穏やかに新年度をお迎えになることを願って
やみません。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第163号(2009年3月11日)

====================

※私がやっているヒューマン・スタジオは相談件数が少ないうえ、不登校・ひきこもり相談の多くは数年がかりの取り組みです。そのため、年度替わりに良い報告をいただくことは多くはありません。ただ、中学3年生の場合は進路選択がうまく行った本人の親御さんから嬉しいご報告をいただくことがあります。いずれの場合もご本人とご家族によるご努力の賜物であり、文中で述べたように私は下支えしていたに過ぎません。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

※この記事をお読みになってメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。今月から毎月配信になり、近日配信予定です。

※次回家族会は4月。3日(土)に「しゃべるの会・不登校編」を平塚市で、17日(土)に「しゃべるの会・ひきこもり編」を逗子市で、それぞれ開催いたします(感染状況によりオンライン開催に変更することがあります)。今回からオンライン開催に変更した場合のみ参加できる方の「仮申し込み」も受け付けますので、全国どこにお住まいでもご関心の方は↓の公式ブログ記事をご覧のうえご参加をご検討ください。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。