不確かな事態に耐える力(前編)

 新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。学校の休校で子どもたちは家の外に行き場を失い、多くの業種で企業・商店が休業や売り上げ激減で存亡の危機に立たされています。

 「こうしたら絶対感染しない」「いつからもとに生活に戻れる」といった明確な答えは未だに得られず、私たちは出口の見えない暗いトンネルを歩いているような、模索と葛藤の日々を過ごしています。

 このような「答えの出ない不確かな事態」に直面し続けている苦悩は、まさに不登校/ひきこもり状態に似ています。
 事実、不登校/ひきこもり状態の本人や家族のなかには「これが自分たちの置かれている状況なんだ」とインターネットに書き込んでいる方もおられます。

 では、わが子の不登校/ひきこもり状態という「答えの出ない不確かな事態」に直面して、模索と葛藤の日々を送っておられる親御さんはじめご家族は、どのような心がまえが必要なのでしょうか。

 長年ひきこもり状態への相談援助に取り組んでいる日本福祉大学名誉教授の竹中哲夫氏は、ひきこもり状態の長期高年齢化に関して「家族や支援者にネガティブ・ケイパビリティが必要」と提唱しておられます。

 私はこの言葉を何度かうかがって「自分が相談や家族会で親御さんに求めているのは、これだったんだな」「自分がメルマガに書いていることはこれだったんだな」と、腑に落ちる思いをしています。

 「ネガティブ・ケイパビリティ」とは何でしょうか。

 作家で精神科医の帚木蓬生(ははきぎほうせい)氏は、著書『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』で、次のように説明しています。

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 「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」をさします。あるいは「性急に証明や理由などを求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」を意味します。
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 私たちは「能力」と言えば、才能や才覚、物事の処理能力を想像します。学校教育や職業教育が不断に追求し、目的としているのもこの能力です。問題が生じれば、的確かつ迅速に対処する能力が養成されます。
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 氏は、後者を「ポジティブ・ケイパビリティ」と呼び、その能力が人生の重要なことを見落としている、と警鐘を鳴らしているのです。

 そして「不登校の子はネガティブ・ケイパビリティを発揮しているから、親も同じようにネガティブ・ケイパビリティを持つ必要がある」と提言します。

 さらに、4月12日付朝日新聞朝刊文化面でのインタビューでは「本人は引きこもりという形で、答えの出ない中ぶらりんの状態に耐えている。だから周囲は待てばいいのに、できないんですね」と語っています。

 実際、現代はポジティブ・ケイパビリティ至上主義で、親御さん方はそのなかで生きています。まして教師や医師・心理等の関係者は、学校で優秀な成績を修めたり難しい資格試験に合格して現職に就いていたりしますから、不登校やひきこもりという“宙ぶらりん”の状態に対応する歯がゆさに耐えられず、早く学校/社会に戻そうとしたり、学術的な理論を当てはめて理解した気になったりすることが少なくないでしょう。

 一昨年度に公表されたそれぞれの調査結果(小中学生の不登校14万人、40歳以上のひきこもり61万人)が示すように、不登校・ひきこもり対応はうまく行っていると言えない現状ですが、私はその要因のひとつがここにあると考えています。

                           <後編に続く>

不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。