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心の岩盤を突き破るために(後編)

否定のまなざしは自分自身も

 これまで繰り返し述べてきたように、不登校/ひきこもり状態の人たちは「異常」「ひ弱」「甘え」「わがまま」等々、常に非難や偏見のまなざしを社会から向けられています。それは動かしがたい「常識」「社会通念」でもあります。

 そればかりではありません。その「常識」「社会通念」は本人やご家族も持っているわけですから、本人も「自分はダメ人間」と自己否定のまなざしを自分に向け、ご家族も「この子は何とかしなければならない人間」という否定のまなざしを本人に向けています。

 本人や親御さんが「自分/わが子が不登校/ひきこもりにならなかったら、一般の人と同じようにそういう人を馬鹿にしていた」などと述懐することしばしばです。

 つまり、不登校/ひきこもり状態は、社会から否定されると同時に、本人や家族も否定することが多い、という特質があるわけです。

外の世界と行き来するのを阻んでいるもの

 ここで「岩石」と「岩盤」をたとえに使います。

 ご存知のとおり「岩盤」とは「岩石が集積した強固な地盤」のことですが、今お話しした「常識」「社会通念」による否定のまなざしを「岩石」にたとえますと、社会が作った「岩盤」とその内側に自分自身や家族が同じように作った「岩盤」という “二重の岩盤” の下に、本人が閉じ込められている――というのが、私が本人たちに持っているイメージです。

 だとすれば、本人が外の世界と行き来するためには、分厚い岩盤を突き破らなければならないほど気の遠くなる話だということになります。
 しかもこの岩盤は、月日が経つほど厚みを増していく印象があります。

 そこで、この岩盤を “心の岩盤” と呼びましょう。

心の岩盤を貫通させるには

 前に挙げたような本人の趣味や得意なことを家庭のなかだけでなく、家族以外の他者に提供したり共有したりすることができるようになるためには、この “心の岩盤” に穴が開いて外と出入りできる心の自由が得られなければなりません。

 そのため、親御さんなどの家族は “心の鑿(のみ)” で内側から岩盤を堀り、学校や社会や支援は “実践または仕組みの鑿(のみ)” で外側から岩盤を掘っていくような対応が必要になります。

 その末に岩盤の穴が貫通したら、本人は外の世界と自由に行き来できる心になって、料理を家族以外の人に振る舞ったり同じ趣味の人と交流したり、スポーツクラブに入ったりできるようになるわけです。

 もちろんこれは、趣味や得意なことにかぎりません。本人が家族以外の人との接触や交流ができない心理全般に該当することです。

 このように、本人を閉じ込めている “心の岩盤” が、現代の「常識」「社会通念」からの否定のまなざしによって作られているのであれば、それを突き破るためには、家族は意識や言動や態度や接し方を「肯定」で満たすこと、学校や社会は常識や社会通念を「肯定」に変え、それを前提とした仕組みづくりを進めていくこと、だと思うのです。

 次回は、このことを踏まえた対応や支援のやり方について、具体的な提案をお伝えします。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第235号(2019年4月3日)

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※私のメルマガでは「相談や家族会でよく聞くお話について考えたことを数年後に文章化する」というパターンが多いのですが、この文章もそのひとつ。本人が外の世界を広げることの難しさを岩盤に囲まれているかのようだと感じて考案した、その成り立ちと対応イメージをまとめたものです。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

※この文章でメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。今月号の配信日は過ぎていますが、月内には配信します。

※来たる3月12日、横浜市の「すすき野地域ケアプラザ」で、会場&web配信によるひきこもりイベント『第2回すすきの庵「ひきこもる人の気持ち」学習会』の午前の部で講師と座談会の進行役を務めます。午後の部や情報コーナーもありますので、ひきこもりに関する知識や情報を得たい横浜市の方はご来場を、その他の地域でご関心の方はweb配信の視聴を、それぞれお願いいたします。詳細は ↓ の公式ブログをご覧ください。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。