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状態の線に沿って(後編)

プロセスを早めることは可能か

 ご家族は、最初に挙げた「状態の上下の波を繰り返すパターン」では「状態の下降が早く終わって上昇に転じるようにコントロールしたい」「理想を言えば状態が下降する時期が省略されて上昇する一方になってほしい」などとお考えになると思います。

 次に挙げた「間隔を置いてワンランクずつステップアップするパターン」では「変化しない横ばいの期間を短縮したい」「いっぺんに何ランクもステップアップしてほしい」などとお考えになると思います。

 しかし、状態というのはそのときどきの本人の自然な心の動きの表れですから、それをコントロールして下降する時期を短縮したりなくしたり、変化しない横ばいの期間を短縮したりすることは、本人に無理させることになります。それでは、本人はいずれ力尽きて状態がガクッと落ちてしまう可能性があります。

 したがって「上昇や横ばいの時期には本人に任せ、下降している時期には本人を下支えする」といった対応を心がけておくだけで、状態の波の上下に一喜一憂せず、本人の歩みについていくように心がけるほうが安全確実だと感じています。

長い歩みは人生の財産に

 大切なのは、不登校/ひきこもり状態を「早く抜け出すべき=早く終わる
べきもの」ではなく「年月がかかっても踏破するべきもの」と捉えることです。状態の線を無理に上げたり短縮したりせず、本人が自然に描いている線に沿って同行していただきたいのです。

 確かに、本人の多くも「早く学校/社会に戻りたい」と願っています。
 しかし何度かお伝えしたように、心の奥底では「自分の納得いくプロセスとペースで戻りたい」という思いを持っているようなのです。

 そのため本人は、行きつ戻りつしながらも、あるいは右へふらふら左へふらふらしながらも、自分の足で自分のペースで歩き続けることによって、不登校/ひきこもり状態という人生経験を肯定し、その後の人生に活かすことができるようになるわけです。

 8年前の1月、アイドルとしてブレイクしたあと非行騒ぎなどで芸能界から姿を消していた高部知子氏が、精神保健福祉士として依存症のグループミーティングの仕事をしている場面がテレビに映りました。

 彼女は、参加者に大要こう語りかけていました。
 「道をあっちにぶつかりこっちにぶつかりして(ジグザグに)歩いている自分のほうが、まっすぐ歩いている人より何倍も長く歩いていることに気づいた」

 「不登校・ひきこもりにおける状態の推移」をテーマとするお話はこれで終わります。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第214号(2015年10月14日)

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※先月の第1週からきょうまでの2か月間にわたって転載してきた「不登校/ひきこもり状態のプロセス」に関するお話はいかがでしたでしょうか。家族など周囲の人々が私のような考え方で対応していると、こんな感じで推移することが多いようですから、先月のカバー画像に載っていた「状態グラフ」を念頭に置きながら対応なさることがお勧めです。とりわけ相談員的なポジションにいらっしゃる方には知っておいていただきたい図と文章です。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

※この記事をお読みになってメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。来月号でも「設立20周年記念イベント」関連の記事を掲載します。

※家族会「しゃべるの会・ひきこもり編」が3日後の30日(土)に迫りました。逗子市内の会場とZOOMの併用開催ですので、全国どちらからでもご参加いただけます。ひきこもり状態にあるおとなのご家族またはご家族の関係の方は、↓ の公式ブログ記事をご覧のうえ、ご参加またはご紹介をお願いいたします。会場は事前申し込み無しで当日直接お越しになればご参加いただけます。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。