良き伴走者になるために(後編)
マラソンの伴走にたとえると
次は、東京オリンピックで「男女アベック入賞」という成果を上げたマラソンの特性をたとえに使います。
本人がマラソンランナーとして、親御さんが伴走者として、マラソン大会に出場したと仮定します。そのとき、伴走者としての親御さんには三つの心がまえが必要だと思います。
第一に、マラソンでは安全確実なペースを守らないとゴールの手前で力尽き、途中棄権ということになりかねませんよね。不登校/ひきこもり状態も同じで「学校/社会復帰」というゴールをめざして一目散に走っていたら、途中で力尽きてしまいかねません。
そのため、親御さんは本人が自分に合ったペースで前へ進めるように配慮することが求められます。先ほど申し上げた「本人のエネルギー量に合ったペース」を見出し、それを認めることが大切なわけです。
本人の心に合った栄養を
第二に、マラソンを完走するために大切なことのひとつに「給水」があります。トップクラスの試合では、間隔を置いて設けられた給水地点に、それぞれのランナーが独自に作った飲料、いわゆる「スペシャルドリンク」が用意されることをご存知かと思います。
この飲料の中身が不適切だと消化不良を起こして、やはり途中棄権ということになりかねませんよね。
これを不登校/ひきこもり対応に置き換えますと、本人(=ランナー)が前に進むことができるよう、親御さん(=伴走者)が心の栄養を与える(=スペシャルドリンクを渡す)という話になります。
そこで「学校に通うのが当たり前」「働かざる者食うべからず」などという常識や規範にもとづいた働きかけをスペシャルドリンクにたとえると「脂肪分いっぱいの濃厚なドリンク」のようなものですから、本人は“心の消化不良”を起こして(=罪悪感やプレッシャーにさいなまれて)しまいます。
のどが渇いているときにパンをもらってもうれしくないのと同様、本人にとって心の栄養になるのは、本人が求める対応しかありません。それを見つけるために、本人と一緒に模索していくことです。
適度な距離感の大切さ
第三に、ランナーと伴走者は、一定の距離を保つことが大切です。
実際のマラソンでは、伴走者がランナーに近づきすぎると、ランナーの邪魔になるし、衝突する危険性もありますよね。不登校/ひきこもり状態における親子関係も同じで、親が心配しすぎて干渉や操作を繰り返すような近すぎる関係ですと、本人は親が邪魔に感じられるばかりか、親子の衝突(=暴力や深刻な対立)に発展しかねません。
かといって伴走者がランナーから離れすぎると、ランナーは「あの人は自分だけ先に行こうとしているのでは?」と不安になるのと同じで、親が腫れ物にさわるように接するような遠すぎる関係でいると、本人は「自分のことをほったらかしにしている」と親に不信を抱くことになりかねません。
間もなく開幕する東京パラリンピックでも、選手の方々は私たちに有意義な気づきを与えてくれることでしょう。
初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第227号(2017年12月6日)
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※執筆当時(4年前)にあった出来事をもとにした内容(前編)と、それ以前からたとえに使っていた内容(後編)を、合体させた文章です。最近では前編の内容を発展させて「本人は自己新記録を更新し続けている」とお話しすることがあり、そのたとえ話もいずれメルマガに書こうと考えています。
※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。
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