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“階段”より“スロープ”を(後編)

「経験者だから受け入れられる」は安易な発想

 「だったら“階段”を低くすればいいじゃないか」ということで出てきたのが、厚生労働省が2013年度から新たに開始した、いわゆる「ひきこもりサポーター養成・派遣事業」だと思います。これは、前述の「家庭訪問」をおもにひきこもり経験者やそのご家族に実践させることによって“階段の一段目”を低くするねらいがあるように見えます。

 しかし「講座1」でもお話ししたように、私の推測では、たとえ経験者であっても、ひとたび家庭訪問という「支援」を実践する人になってしまえば“現役当事者”はその人のことを「支援者」としか見てくれません。「経験者だから理解してくれる」などと都合よく見てはくれず、ほかの支援者と同様の拒否反応を示される可能性が高いと思われます。

 したがって、この事業の効果ははなはだ疑わしいところです。

 ただし「“支援の階段の段差”を小さくする」という方向じたいは否定しません。その手法を開発し用意することによって、支援を受けやすくなる当事者が増えることは間違いないでしょう。

 ただ、これまでお話ししてきたように、支援を受けるエネルギーが不足していたり「支援」そのものに抵抗感を持っていたりして、動けないでいる当事者が少なくないことは厳然たる事実です。

 したがって、そういった状態のままで前に進むことができるルートを、当事者=本人の“人生という道”に用意することが求められているのではないでしょうか。

 そこで「“スロープ”を造る」という話になります。

“スロープ”になる対応とは

 この場合の“スロープ”とは「<本人が学校/社会に出られないでいる段階>で前に進みやすくなる周囲の対応」および「その段階で出入りしやすい場や付き合いやすい人間関係(支援者であるかどうかに関係なく)」のことです。

 字数の都合で、ここでは「周囲の対応」についてのみお話しします。

 これまで繰り返しお話ししてきたように、本人への見方や接し方には“教育的”“支援的”なものと“生活的”“日常的”なものがあり、今回のたとえで言えば、“スロープ”を造るのは後者ということになります。

 一例として「ぜんしん」というNPOで不登校・ひきこもり支援に携わっている元当事者の柳川さんによる「寝食を忘れてゲームのハイスコアを競っていることに、母がしだいに興味を持ち、最後には応援してくれるようになった」という体験談を、セミナー2日目の「当事者トーク」でご紹介しました。

 そこまでいかなくても、親御さんをはじめ周囲の人が「本人が熱中していることを共通の話題にする」「本人がやりたいことをできるように協力する」「本人の得意なことを役立ててもらう」などの対応は“スロープ”を造ることになります。

 たとえば、本人がパソコンが得意だということで、親戚や家族の知り合いがパソコンを教えてもらったり不具合を直してもらったり、という話があります。

 こうして、本人は学校/社会に出ていないままでも、生活が楽しくなったり行動範囲が広がったりして、前に進みやすくなるわけです。

 「ゲームに熱中しているのを認めてよいのか?」「楽してうまくいくものなのか?」――来月はこういう具体的な点を考える文章を転載します。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第199号(2013年4月10日)

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※私がやっている不登校・ひきこもり相談室「ヒューマン・スタジオ」が定期開催していたイベント「青少年支援セミナー」の第19回でお話しした内容をふくらませた1本です。私が一般的な不登校・ひきこもり支援の仕組みを“階段型支援”と表現して問題点を指摘する講演ネタは、同セミナーを開催した8年前の3月には使い始めていたわけです(近年、同セミナーに登壇した林恭子氏や大谷大学の岡部茜氏もそれぞれの視点から批判的に使っていて心強いです)。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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