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グレーゾーンの当事者たち(後編)

支援の場より非支援の場

 私は「支援」と無関係な場(非支援の場)であることが最も大きな要因ではないかと感じています。たとえば、何度も参加してなじんできた人に「次のステップに上がったら?」などと言う人はいません。トラブルを起こさないかぎり、誰からも否定されたり指導されたりしません。出入りも過ごし方も、参加者の自由意思に任されています。

 そんな4か所のうち1か所の共同世話人である伊藤書佳氏は、2014年3月に開催した「第20回青少年支援セミナー」のパネルトークのなかで、
そういうコミュニティのことを「通過点ではない」と表現しました。

 現在、多くの支援機関が「居場所」と称してフリースペースを開設していますが、その多くは私の言う“支援の階段”のなかの1段すなわち「通過点」という位置づけであり、そこになじめたら次のステップに上がるよう勧めることが多いでしょう。当事者の人たちが、そのような場と前述のコミュニティのどちらにより魅力を感じやすいか、はっきりわかる気がします。

自発性が喚起される

 さらには、そういう場であるためか「参加の目的は人間関係やコミュニケーションの練習です」と言う人もいます。

 そのような練習は、一般には多くの支援機関が開設しているフリースペース、またはその上のステップとして実施される「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」「アサーション(自己開示)トレーニング」などで“させるもの”と考えられています。しかし、4か所のコミュニティは「ここで人間関係やコミュニケーションの練習をしよう」と思える当事者が現れるほど、自分で考えて自分のペースで参加できる場だと認識されているわけです。このような場こそ、かねてから提唱している「当事者が求めるプロセス」を実現する資源だと、私は考えています。

グレーゾーンの当事者たち

 最後に、このようなコミュニティはどこもほぼ毎回新しい参加者が現れます。それは、ひきこもり状態がやわらいだ当事者たちがグレーゾーンに次々と“参入”していることをうかがわせます。加えて、就職したあと劣悪な労働環境などによって退職し、グレーゾーンに退却してくる人が増えているという指摘もあります。

 こうして、今やグレーゾーンには「社会に定着できないが自らの意思で動くことができる人たち」がたくさんいて、前述のとおり非支援の場に参加する人はもちろん、それをきっかけに居場所づくりや「ひきこもり大学」などの活動を始める人も現れています。そのような人たちの姿を見ていると、グレーゾーンの当事者たちが生きやすくなったり経験や持ち味を活かすことができたりする社会環境づくりの重要性を痛感せずにはいられません。私もそうした取り組みを始めているところです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第213号(2015年8月12日)

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※本文に「私が参加している4か所のコミュニティ」という記述が散見されますが、ここでその4か所を明記します。「新ひきこもりについて考える会」「新ひきこもりについて考える会・読書会」「いけふくろうの会」「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」(IORI)です。その後、設立20周年記念イベントでも取り上げた「ひき桜」や「ゆるり会」が加わっています。また、本文の最後の段で挙げた活動の苗床になってきたIORIは、9年近くにわたって続けてきた定期開催を8月で終了しました。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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