花を咲かせるために(後編)

ヒントだけ与えて気づきを待つ

 10年前の3月(筆者注:2月26日~3月6日)に日本テレビ系列で放送された『桜からの手紙』という学園ドラマをご覧になった方がいらっしゃると思います。

 そこに出てきた前田先生は、はからずも「咲かなくなった桜の木を毎日世話している」という設定です。

 前田先生は、自分がガンで余命3か月と宣告され、退職して入院しなければならなくなったとき、生徒一人一人に手紙を渡します。

 この手紙は、ひと言しか書かれていなかったのですが、それは常日頃から生徒一人一人を入念に観察していた先生が、それぞれの生徒の個性や置かれた環境を見抜き、卒業までに解決しなければならない課題にヒントを与えるものでした。

 たとえば、いつも自信がなく孤独に過ごす“鉄道オタク”の生徒には「好きは背中を押してくれる 勇気を持て」と、親友に嫌われないように趣味や服装を無理して相手に合わせる“親友依存症”の生徒には「一人で立って、二人で楽しい」といった具合です。

 生徒たちは、最初のうちはその意味がわかりません。しかし、悩んだとき、ふとその言葉を思い出してハッとしたり、意味をたずねたくなって先生に会いに行ったりしながら、生徒たちは自分に大切なことに気づいていくのです。

不登校/ひきこもり対応は栽培のように

 このような「生徒一人一人をしっかり観察して、最適なヒントを与える。意味は自分で気づくときが来るだろう。わからなければ聞きに来ればいい」という前田先生の指導方針は、まさに生徒の「伸びよう」「自分の花を咲かせよう」とする意思と力を信頼し、そのために必要な養分を与え、あとは生徒がそれを吸収して自分の花を咲かせるのを待つ――という“栽培”のようなものだと、私は感じました。

 そしてこのような教師像は、不登校/ひきこもりの状態の人に対応する周囲にとって良いお手本のように思われました。

 私も、不登校状態だった高校時代、担任のB先生と「交換ノート」をやっ
ていた時期があって――こちらはひと言ではなく文章でしたが――前述のドラマの生徒と似たような経験をしています。

 私も当時は、B先生が書いてくれたことを直ちに理解することはできませんでした。しかし、先生との話し合いや翌年度の学校生活のなかで、自分を変えることの大切さと、それを実行することによって人生が変わることのだいご味を知って、かつて先生が書いてくれた文章の意味を理解するにいたったのです。

 「家に閉じこもっている」「好きなことがあるのにやらない」など、現在のわが子を見ている親御さんは「いつになったら芽が出るのか? もともと種が埋まっていないのではないか?」と、いぶかしさや空しさを抱きながら毎日水や肥料をやっているようなお気持ちなのではないでしょうか。

 それでも私は「意欲の種は必ず埋まっている。周囲にできることは、種をほじくり返して茎を引っ張り出すのではなく、埋まっている種にひたすら水や肥料をやり続けることだけだ」と思うのです。

 いつしか、本人が自ら花を咲かせることを祈りながら――。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第187号(2011年4月13日)

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※後編でご紹介したドラマをご記憶の方がいらっしゃると思います。前田先生を江口洋介氏が、生徒たちをAKB48の中心メンバーが、それぞれ演じた連作ショートドラマ。放送翌月の配信号に掲載する文章を執筆する際、私はこのドラマをたとえで使うことに何の迷いもありませんでした。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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丸山康彦
不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。