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ドラマの結末はわからない(後編)

自立を約束する支援機関

 確かに、そういう機関の支援には不登校/ひきこもり状態の人たちに一律に適用するシナリオ(システムやノウハウ)がありますから、それに本人を当てはめてあとはシナリオどおりにやっていけば、特に小学生を不登校状態から抜け出させることは、それほど難しくないとさえ言えます。

 しかし「不登校/ひきこもり状態からの脱出」は、はたしてよい結末だと
言い切れるでしょうか。

 去年12月1日に転載した149号『対応する側の論理』で“私の不登校状態を、両親は「悪事」と、ほかの人は「甘え・ひ弱」と、カウンセラーは「病理」と、それぞれ捉えて対応していた”とお話ししましたが、そのような対応は本人が納得できるプロセスにはならないことを、前掲の150号で指摘しました。

 納得できないままに、または「そうすべきだ」という義務感のままに、我慢してあるいは「この方法しかない」と思い込んで関係機関に従っている以上、本人の心には必ず「無理」がかかっています。そして「無理」からは「わだかまり」が生まれ、それが澱(おり)のように心の奥底にたまっていきます。

無理して復帰した先に困難が

 しかもこの心理メカニズムは、支援を受けていなくても生じます。
 すなわち、去年8月4日に転載した145号『〔経験者は同じことを言う①〕適応力より自律力』などで述べたように、不登校/ひきこもり状態にある人の多くは学校/社会への復帰を焦っています。その焦りに突き動かされて登校/社会参加をめざしていると、やはり心に「無理」がかかり「わだかまり」がたまっていくわけです。

 支援を受ける受けないにかかわらず、そうして学校/社会に復帰してもそれで解決とはならないで、通学や社会生活を再開しても長続きしなかったり、常に苦しさを抱えていたりする場合があるのです。
 こうなると、また新たな困難が生じて「最終回を迎えたはずのドラマに、まだ続きがあった」ということになってしまいます。

 もちろん、すべての経験者がそうなるわけではありません。ただ「不登校/ひきこもり状態からの脱出」だけをよい結末だと本人も周囲も考えているかぎり、このような人たちがいつまでも出現し続けるであろうことに、疑う余地はありません。

「どのような人生を歩むか」が重要

 要するに本人の多くは「決まっているゴールに一直線に到達するプロセス(=最終回がわかっているドラマ)」ではなく「自分でゴールを探しながら歩くプロセス(=最終回がわからないドラマ)」を、無意識のうちに求めているように思われるのです。
 「学校/社会への復帰」というゴールと、そこに到達する方法だけしか視野に入らないプロセスは、納得できる生き方ではないのでしょう。

 それを正しいと私が思うのは「どうやって学校/社会に復帰するか」よりも「どのような人生を歩むか」のほうが重要だと考えるからです。
 本人が納得できるプロセスを歩むことができ「わだかまり」を残さない対応を受ければ、先には明るい結末が待っていることでしょう。

 「先のことはわからない」とか「あとから“あのときが転機だった”と気づく」などといった“人生の法則”すなわち“現実”に立ち返って<今の生活>を最も大切にしながら生きることが、悔いのない結末を迎える秘訣なのではないでしょうか。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第151号(2008年3月12日)

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※メールマガジンを創刊して2,3年後から作成するようになった案内チラシに“「復帰への支援」と「人生の幸せへの支援」はどう違う?”と“本人が望むプロセスとそれを叶える周囲の見方と対応は”という、ふたつのキャッチコピーを記しています。この2点を同時にお伝えするように書いた文章です。私は相談業務を始めた18年前から、一貫してこの2点を柱に据えて対応しています。

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