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無理してるわが子をどう見るか(後編)

無理しないほうがいいけれど

 次に後者に対してですが、じつは私は、この点については「そうだ」とは言い切れません。

 確かに、本人の前向きな発言や自発的な行動には「自然に出るもの」と「無理に出すもの」の二種類があります。そしてその多くが「無理に出す言動(発言と行動)」だということを、ご家族や関係者は経験しています。

 そのうえ、自然に出た言動と無理に出した言動は、ご家族が長いこと見聞きしているうちに区別がつくようになってくるものです。むしろ、区別がつかないのは本人のほうであることが少なくありません。

 無理に出した発言だったらその多くは実行できずに終わりますし、無理に出した行動だったらその多くは長続きせずに終わります。どちらの場合も、本人は「自分はやっぱりダメなんだ」と挫折感に打ちひしがれ、自信を失ってますます動き出しにくくなります。

 そのため、動き出しているわが子のことを「あの子は無理しているから、いずれ反動がくるに違いない」と気をもんでいる親御さんもおられます。挫折して、かえって状態が悪くなることが心配なのでしょう。

 このように考えると「無理して発言したり行動したりしても<一歩前進>と評価すべきではない」ということになりそうですが、私は次のような理由で「ケースバイケース」ではないか」と考えています。

家族の考え方三原則

 第一に、無理しているから必ず挫折するとはかぎりません。

 たとえば、無理して登校したりアルバイトを始めたりしても、人間関係に恵まれたり、環境が本人に合っていたりすれば長続きし、無理する必要がなくなって自然に定着していく可能性は無視できません。

 第二に、無理して出た行動でも、長い目で見れば良かったと思える場合があります。

 たとえそれが“案の定”失敗に終わり、いったん状態が悪化したとしても、あとから振り返ったとき、それも有意義な人生経験だったと思えるときが来れば、その行動じたいは<前進>だったことになります。

 私の不登校時代もまさにそうで、今から考えれば無理して登校しているうちは挫折を繰り返し、自然に登校できるようになってから順調に卒業までいたったわけですが、無理して登校している間に「人間関係の大切さを知る」という大きな収穫があったのです。

 第三に、そもそも「挫折することが目に見えている無理な行動に出ようとしている本人」を、周囲が制止することにはリスクがあります。

 たとえば、今は進路が決まっていっている時期ですが、周囲から見て無理だと思える進路を本人が選んだ場合、周囲がいくら「それは無理だ」と説得したところで、本人は納得しません。

 また、仮に本人が自分の意思を曲げて周囲の説得に従った場合、その進路でうまく行かなくなったら「周囲に人生を狂わされた」という被害感情が生まれ、再び不安定な状態になってしまう恐れがあります。

 このようにあれこれ考えると、心身が壊れるかもしれないほど無理するのは当然<前進>とは言えませんが、そこまでのことでなければ、本人と話し合ったうえで判断を任せ、あとは家族が“心の母港”として何が起きても本人を温かく迎える姿勢で見守っていれば、本人の行動は<前進>だと受け取れるものになるかもしれない、と思えるのです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第175号(2010年3月10日)

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※不登校状態の中学3年生は、進路が続々と決まっている時期ですね。無理なく選んだ進路ならうまくいく可能性が高いのですが、無理して選んだ進路ですとうまくいかない可能性があります。もちろん高校生や大学生の進級やひきこもり状態からの進路選択の場合も同じです。その意味で、ご家族が先を見据えた心がまえを持つ参考にしていただければ幸いです。

※このメルマガバックナンバー掲載文、文中でふれた号を含む拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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