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支援思考と生活思考(後編)

ペットを飼うことをどう決めるか

 本人または家族の誰かが「飼いたい」と言い出した、あるいは家族のなかで「飼いたいね」という話になった、という場合です。
 そして「犬/猫に夢中になって学校/社会復帰のことを考えなくなるのでは?」などと心配なさるわけです。

 このような場合、私は「お子さんが不登校/ひきこもり状態でなかったらどうされますか?」とおたずねすることにしています。

 一般の家族が犬/猫を飼うことを考えるときに行われるのは「誰が面倒を見るのか?」とか「散歩は誰がするのか?」とか、そういう話し合いでしょう。
 ところが、不登校/ひきこもり状態にある人の親御さんは「学校/社会に戻るために逆効果にならないか?」という点を気にしてしまわれるわけですね。

 しかし、不登校/ひきこもり状態のプロセスは、もっと多様な要因によっ
て左右されるものです。

 逆の例ですが、私が不登校状態だったとき、父が「情操教育によって学校
復帰促進効果を」と考えて犬をもらうという対応をしたことで、私は動物好きになったし犬と共に過ごした時代が一生の思い出になりましたが、学校復帰には何の影響もありませんでした。

 逆もまた真なりです。 したがって、多くのご家族がそうであるように「飼ったら家族が幸せになるかどうか」で判断すればよいと思うわけです。

支援思考より生活思考を

 以上のように、親御さんの多くは、不登校/ひきこもり状態になったわが
子を「学校/社会に出られない子」としか見ることができなくなります。
 そのため、生活上のあらゆる事柄について「学校/社会に戻すことにつながる方法が良くてそうでない方法は無意味」とか「それは学校/社会に戻るために効果があるか逆効果か」などと考えるクセがつき、そのような言葉(支援の言葉)ばかりを発するようになっていきます。

 私はこれを「教育意識」「支援思考」などと呼んでいます。

 一方、わが子を「学校/社会に出られない反面それ以外はほかの子と同じ子」と見ることができていれば「家族全員が幸せになるために本人も交えて生活上の課題を解決することの必要性」への認識は変わりなく、それにもとづく言葉(日常の言葉)を発し続けます。

 私はこれを「生活意識」「生活思考」などと呼んでいます。

 経済的な課題やペットを飼うことにかぎらず生活上のあらゆる場面で、どちらの意識・思考が親御さんの負担を軽くし本人の自己肯定感を育むか、そしてどちらの意識・思考が家族全員に幸せ感を抱かせるか、今いちどお考えになってはいかがでしょうか。

 少なくとも本人にとっては「学校/社会に出られない自分を、変わらず家族の一員として接してくれている」という安心感と親への信頼感は、何物にも代えがたい一生の財産になってくれるはずです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第195号(2012年8月8日)

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※本稿は、私が20年近く前からメルマガ掲載文でしばしば提案している内容を、9年前に「支援思考」「生活思考」というオリジナルの用語を初めて使ってまとめたもので、講演でもよく盛り込んでご好評いただいています。日頃の面接相談や家族会でよく出てくるふたつのお悩みを題材にしているので、ご理解いただきやすいかと思います。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

※この記事をお読みになってメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。今月号は都合により配信日を1週間延ばしましたので、今週金曜日の予定です。

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