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変化のないとき本人は(後編)

次の上り坂に向かって

 第二に「“水平線のような状態の線”にも始まりと終わりがある」という点です。

 今月(メルマガでは7年前の4月)から数回にわたってお話ししてきた“状態の線”ですが、ここではそれを「道」に置き換えて思い浮かべたうえ、本人がその道を歩いているとイメージしてください。

 そうすると、最初の数回でお話しした“上下の波を繰り返す線”は「上りと下り坂を繰り返す道」に、そのあとお話ししている“水平線”は「平坦な(多少の上り下りはある)道」に、それぞれたとえることができます。その意味で今お話ししている段階は「上り下りの激しい道を抜けたあとの平坦な道」ということになります。

 平坦な道の先にはまた上り坂があるわけですが、道が平坦になったばかりのところを歩いている時期は、次の上り坂に到達するまでにはまだ月日がかかります。しかし、本人は歩き続けているのですから、月日を経るにつれ次の上り坂に近づいているわけです。

どこを歩いているかを推測する

 つまり「状態は良くなったがそのままで長く変化しない段階」というのは、立ち止まっているのではなく、次の「より高い段階」に向かって歩いている段階である、と解釈できるのです。

 したがって、同じ状態が続いているように見えていても「まだしばらくはその状態が続く(平坦な道に到達したばかりの)位置」を歩いている人もいれば「あと少しでステップアップする(次の上り坂に近づいている)位置」を歩いている人もいるわけです。

 実際に面接相談で、お子さんがこの“水平線”の段階にあると思われる親御さんのお話をうかがっていると「本人が平坦な道のどこを歩いているか(水平線がどのくらい延びているか)」を推測できることが少なくありません。

 その場合私は「今の段階に到達して間がないから、しばらくその状態が続くだろう」とか「今の段階に到達して月日が経ってきたし、お子さんの様子だと次の段階にステップアップする時期が近づいているだろう」などと見通し(予測)を申し上げることがあります。

 同じ状態が続いていても、本人は着実に歩み続けている(前進している)のだということがおわかりいただけたでしょうか。

対応の目的は「向上ではなく充足」

 以上の2点を踏まえて私は、周囲が「今の生活に安住している」と解釈して「もっと向上させる対応を」とか「支援を受けさせなければずっとこのまま」などと焦るよりも「今の生活をとことん充足させる対応」を積み重ねることで、前述したような本人のなかにある「苦しんでいた時期の残り香(が)」を気にならない程度まで薄めていくほうが、次のステップへ向かう本人の歩みが早くなるのではないかと考えています。

 では、その「向上させるための対応」と「とことん充足させる対応」とは、それぞれどのようなもので、どのように違うのでしょうか。

 来月、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』の内容にも絡めながら詳しくお話しします。

※この「プロセス」のありようについては、今月最初に転載した文章にも記しているとおり、発達や精神の障碍が強く影響している不登校/ひきこもり状態にも当てはまるとはかぎりませんのでご注意ください。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第210号(2015年2月11日)

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※この文章を書いた7年前は、前回までに転載した文章に書いた「状態の上下を繰り返す時期からプラトー現象のような時期へ移行するプロセス」が最も多く、それよりは「状態の上下を繰り返す時期とプラトー現象のような時期の間に、奥行きの長い階段のような時期が存在するプロセス」のほうが少ない、と考えていました。しかし現在では、奥行きの長い階段のような時期が同じくらい多く見られると感じています。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

※この記事をお読みになってメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。今月号は設立20周年記念イベントの開催趣旨につながる「本人の側に立った視点からの不登校・ひきこもり理解」をテーマに書き配信しました。

※その設立20周年記念イベントについて、告知に書いていない詳細を金曜日に書く3回シリーズ。最後の3回目は、10月2日(土)午後に開催する2日目。ご関心の方はお読みいただき、よろしければご紹介または末尾にリンクした告知サイトからお申し込みをお願いいたします。締切直前ですのでお急ぎください。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。