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旅人よ(後編)

ひとり旅を心配する親たち

 一方、多くの親御さんが本人に登校を督促することを今のたとえに当てはめますと、団体旅行の良さとひとり旅の危険性や苦しさばかりが思い起こされ「ひとり旅は危ないから心配だし、勉強にもならない」などと考え、団体旅行に参加させようと説得するのと同じです。

 なぜなら、親御さんの多くは「ガイド付きの団体旅行」の経験者であり、不登校状態という「あてのないひとり旅」の経験がないからです。

 しかし、すでに旅立ってしまった子は、団体旅行への未練を持ちながらも、心の奥底からわき上がるエネルギーに背中を押されて、現在やっている旅を続けているのです。

 そのため、ひとり旅を無理にやめさせれば、中途半端に旅が終わってしまったことがわだかまりとなり、その後の人生で違う状態として表面化する恐れがあります。

 もちろん、この話はひきこもり状態にあるおとなの場合にも当てはまります。
 ひきこもり状態にある人もまた、あてのないひとり旅に立った人たちと言えるわけです。

親御さんがするべきこと

 そんな“心の旅人”である不登校/ひきこもり状態にある人に対して親御さんがすべきことは、ひとり旅をやめさせることではなく、旅先の本人と連絡を取り合い、旅のつらさを受け止めながら不足している物資を送るなどして、応援し続けることです。

 この場合の「連絡を取り合う」とは、直接間接にコミュニケーションをとることを指します。
 ただしコミュニケーションは、学校/社会に戻すことを目的にする会話ではなく、単なる日常会話でなければなりません。

 「学校/社会に出るのは当然」と信じてきた親御さんと「それができない」と悩む本人とでは、認識はかけ離れていますが「家族として心がつながっている」ことを示すために、日常会話に徹するわけです。

 また「不足している物資を送る」とは、満たされない感情を埋めることを指します。
 満たされない感情は、たとえば「自己肯定感」が挙げられます。

 これについてはよくお話ししていますが、親御さんが「それでいいんだよ」「否定することないよ」なとど本人に言っても、それで自己肯定感がよみがえることはまれです。
 そこで、言葉で伝えるのではなく「常に家族の一員として認め、大切に思っている」という態度と接し方に徹すること、言い換えれば“肯定オーラ”を送ることです。

ひとり旅を終えるとき

 不登校/ひきこもり状態にある人のことを「糸の切れた凧」であるかのように捉えて、心配したり怒ったりする方がいらっしゃいますが、本人たちはそのような人ではありません。

 本人たちはあてもなくさまよっているように見えますが、それは戻ってこ
ない凧のようにではなく、ひとり旅をしている旅人のようにです。
 つまり、いつしか本当の自分、または新しい自分を発見できたら、その旅を終え、自分が帰るべきところに帰ってくるのです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第168号(2009年8月12日)

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※転載する号を決めるとき、古い号の掲載文にも関わらず、わざわざ2年目の夏休み期間に持ってきたこの文章ですが、新型コロナ禍によって時期的にふさわしくないテーマになってしまい、一部を書き換えてつじつまを合わせました。それはともかく「あてのないひとり旅」のたとえから不登校/ひきこもり状態がイメージでき、「肯定オーラ」という私オリジナルの表現から本人に対応する姿勢がイメージできましたら幸いです。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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