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マラソンを完走するように(後編)

“常識という壁”を越えるために

 もうひとつ、別のたとえでお話しします。

 不登校/ひきこもり状態になってしまった状況を「壁に突き当たった」と
表現する人がいます。適否はともかくそれに沿ってたとえますと、本人たちは壁を乗り越えようとして一所懸命ジャンプを繰り返しています。しかしこの壁は、そんなことでは越えられないほど高いものです。だからそのうち、足を痛めて(=心に傷を負って)しまうかもしれません。

 そこで、乗り越えるためには踏み台を1段置いて乗ってみて、越えられないようならもう1段置いて乗ってみて、・・・という繰り返しが、最も安全確実なわけです。

 ちなみに、ここで言う「壁」とは「学校/社会への復帰」ではなく、自分の心のなかに築き上げて来た「常識」のことだと私は考えています。

 「一日も早く学校/社会に復帰しなければならない」という常識の壁を越えると、次に目の前に立っているのは、いくつもの低い壁です。
 「学校/社会への復帰」という壁は、そのなかのひとつにすぎません。

 すなわち、いちばん最初に乗り越えなければならない、いちばん高い壁は「常識」なのです。

自分のペースを守ることに価値を

 以上のように、不登校/ひきこもり状態にある人の多くは、不安と焦りを抱えながら、長い道のりを歩んでいます。

 その道のりを少しでも短くするには、よくたとえ話で申し上げているとおり、野球のように「満塁ホームランで一発逆転」ではなく、サッカーのように「1点1点の積み重ね」という発想に立つことです。

 ところで、サッカーと言えば“なでしこジャパン”こと女子サッカー日本チームが10年前のワールドカップ優勝を決めた試合で、PK戦(同店決勝)
が始まる前の日本チームと米国チームの表情の違いを見て、日本チームの勝利を予感した方は多いと思います。

 不登校/ひきこもり状態の本人も周囲も、あのときの米国チームのように
固い表情でプレッシャーに耐えているのではないでしょうか。でも、日本チームのように笑顔で明るく「今出せる力を出せれば悔いはない」とみんなでうなづき合えば、本人も周囲もどんなに楽になるでしょう。

 月末に東京オリンピックが始まりますが、不登校/ひきこもり状態の人たちは、走り幅跳びや走り高跳びや棒高跳びのように、遠くにも高くにもジャンプできません。また、ある親の会の代表の方は「マラソンを短距離走にはできない」とおっしゃいました。

 確かに、周囲の対応や支援によって、42キロを35キロや30キロに短縮することは可能ですが、1500メートルや100メートルにはできません。

 不登校/ひきこもり状態という“心のマラソン” を、リタイアすることなく完走するためには、自分のペースを守り続けることが大切なのです。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第189号(2011年8月10日)

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※元の文章を書いた10年前の8月は、前月に女子サッカーのワールドカップで日本チームが優勝し、月末には世界陸上選手権が開幕する、という時期でした。今回転載するにあたっては、世界陸上選手権を東京オリンピックに書き換えて陸上競技のたとえ話をそのまま使いました。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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