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濃いスープより薄いスープを(後編)

隠れた意味を考えるべき言動

 反対に、隠れた意味を考えなければならない言動は、たとえば33号で挙げた「寝食を忘れてテレビゲームに没頭する」「手を洗うのがやめられない」などといった<二次症状>と呼ばれる行動です。

 これらが繰り返されると、親御さんとしては、ゲームの場合なら「学校へ行かずに遊んでいる。怠けているだけなのでは?」と、手洗いの場合なら「病気なのでは?」と、それぞれ思いたくなるでしょう。

 確かに、本人が不登校状態でなければ、テレビゲームは単なる遊びですし、手洗いを繰り返すことは、医療では「強迫神経症」という“病気”と診
断されます。

 しかしこれらは、不登校状態であるがゆえに生まれた、罪悪感や将来への
不安などに襲われている本人が、そのつらさを、はたから見えるかたちで表出することによって、自分で自分を支える行動なのです。

 これらの行動に対しては、見たままに受け取らずに、隠された意味を理解すればよいのです。そうすれば、子どもの行動を見ると「よっぽど苦しいんだな」と、しみじみ感じられるのではないでしょうか。

 以上のように、子どもの言動にはふた通りのパターンがあるわけです。

 ところで、親御さんが日々の生活場面で、子どもの言動をそのつどこのように区別することは、意外に難しいと思います。

 そこで、区別できない場合はどうするか。とりあえず「子どもの言動に悪意はない」というふうに“性善説”に立って判断していけば、子どもを誤解するのをかなりの確率で防ぐことができます。

自然治癒力を引き出す対応を

 さて、15年前の秋にメルマガで「不登校/ひきこもり状態にある人の変わりにくさ」と「変わりやすくする対応」について考えました。

 そのなかで、不登校/ひきこもり状態の人に「常識を捨てよ」「自分が
どう生きるかを考えよ」などと“正論”を伝えても、それが本人に理解され、本人の変化につながるまでには、想像以上の時間がかかることをお伝えしました。

 たとえ話をすると、病人に早く栄養をつけさせようとして濃いスープを与えても、体力が回復していなければ受け付けないどころか、病状を悪化させることになりかねません。逆に、薄いスープを与えながら時間をかけて体力の回復を促せば、自然治癒力がよみがえって快方に向かいます。大病でないかぎり、このことに異論は出ないでしょう。

 不登校/ひきこもり状態も、これに似ています。

 本人たちが変化するには、想像以上の時間がかかると申し上げました。そ
うです。本人たちの心は、即効性のありそうな強力な対応を受け付けないの
です。したがって、効果的な対応を求めるなら、本人たちの心が受けつける
範囲の地道な方法を選択するしかありません。

 今回提案した接し方は、まさに薄いスープを与えるような方法です。
 即効性はありませんが、地道に積み重ねていけば、必ず本人の心に届いていき、本人の自然治癒力がよみがえってくるのです。

 この年末年始、ここで提案したことを参考にされ、お子さんとよい関係を築かれるようお祈りします。

 それでは、よいお年を――。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第114号(2005年12月21日)

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※私自身、不登校時代は父に「悪事」という捉え方・見方にもとづいて対応されていました。また、不登校時代から大学時代にかけては対応が逆効果になったとき「この子はそれほど悪い性格なんだ」と解釈されていました。これが前回転載した文章を書いた動機です。そして、不登校時代から大学時代にかけての「自分の言動が誤解された経験」をベースに今回転載した文章を書きました。

※このメルマガバックナンバー掲載文、今回の文中にも33号と112号、そして15年前の秋に書いた文章を挙げていますが、それらをはじめ、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本は一部を除き転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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