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ひきこもりながらにして(後編)

オリヒメの魅力

 「OriHime(オリヒメ)」は出かけて楽しむゲームではありません。このnoteのヘッダー写真の左のほうに写っているように、上半身にカメラ、マイク、スピーカーが内蔵されていて、パソコンやアイフォンで遠隔操作する小さなロボット。病気や障碍などさまざまな理由で外出できない人のために開発されたものですが、最近は不登校・ひきこもりの分野に導入する動きが出てきています。

 たとえば、フリースクールやひきこもりイベントに行きたいけど行けない不登校状態の子やひきこもり状態の人が、オリヒメを行きたい場所に置いてもらい、自宅で遠隔操作することにより、その場所の様子や行われていることをリアルタイムで見聞きすることができますし、そこにいる人たちと会話することもできます。

 ひきこもりながらにして、外出体験を楽しむことができるのです。

 さらに言えば、外出できない人のなかには、興味ある場所を見つけては「また行けなかった・・・」と挫折感を味わうことを繰り返している人がいます。そのたびに外出へのモチベーション(動機づけ)は低くなる一方でしょう。

 これに対し、オリヒメを介してその場所に行ったに等しい体験ができれば、その場所の内容や雰囲気がわかり、興味が高まって参加のハードルが下がるなど、外出への動機づけが高まる可能性があります。

 本来、ひきこもり状態の人にとって「人のなかに入れない」から「人のなかに入れる」までの心理的距離は気の遠くなるほどの長さです。そのため、オリヒメを使って「人のなかに入れないのに入っている」かのような経験ができれば、その距離は縮まるかもしれません。

オリヒメでひきこもり生活に楽しみを

 ところで、私がやっている「ヒューマン・スタジオ」は、おもにおとなのひきこもり状態を対象に、既存の支援とは違う新しいシステムの構築・採用を関係各方面に呼びかけるため5年前に研究チームを組織し、3つの提言をまとめるべく調査研究を始めました(現在中断しています)。

 そのひとつが、メルマガで何度か言及していてその1本は去年8月25日に転載した文章のテーマでもある「ひきこもりQOLの向上」をめざす支援システムです。

 本欄でここ3年くらいお話ししているように、不登校/ひきこもり状態への対応の基本のひとつは、まず本人の現在の生活~ひきこもり生活~の「質(QOL)」を高めること、と私は考えています。

 私が言う「ひきこもり生活の質(ひきこもりQOL)」とは「学校/社会に出ていない状態での生活が、どのくらい楽で安心で楽しいか」ということです。

 ここで私は、ひきこもりQOL向上へのさまざまな工夫のなかで、前述のオリヒメの活用を「楽しさ」を得る一例として提言に盛り込むつもりです。 もちろん、外出への動機づけを高める可能性があることはお伝えしたとおりですが、それは結果であって目的ではありません。

 もちろん、前述のゲームと同様オリヒメだって機械嫌いの人は使う気にならないでしょう。だから「一例」としているわけです。

 なお、3つの提言の骨子はその年の10月1日(土)に開催したスタジオ設立15周年記念イベントで発表しました。それから5年経つ今年は、10月1日(金)夜と2日(土)午後に設立20周年記念イベントを開催します。次週この欄でも開催要項をお知らせしますのでご期待ください。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第219号(2016年8月31日)

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※私がオリヒメを知ったのは、今月で隔月開催がストップした定期イベント「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」に、オリヒメをテーマとしたテーブル(=グループ)が設置されたときでした。このテーマを選んでオリヒメを不登校/ひきこもり支援に活用する可能性を知った私は、その後レンタルして講演やイベントにブース出展した際にデモンストレーションを実施して周知につとめました。オリヒメが写っているこのnoteのヘッダー写真は「第1回ひきこもりUXフェス」にブース出展したときのものです。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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