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逃げることの大切さ

※2002年10月に創刊し、掲載文が200本を超えたメールマガジ(メルマガ)『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』のバックナンバーから厳選した100本(予定)の掲載文を、毎週1本ずつ転載しています(歳月の経過を踏まえ、字句や一文、一段落など小幅な修正をしている場合があります)。

※きょうは、4年前の6月に配信された第230号の掲載文です。初期のような短めの文章であるため、前後編に分けずに転載します。

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 お読みくださっていた方がいらっしゃると思いますが、私は5年前の12
月から「不登校新聞」で「ひきこもり“決まり文句”の研究」と題した連載記事を執筆していました。14回続いたその連載の多くは、メルマガで書いた文章を再編集したものでした。

 そのなかで、メルマガで書いたことがなく連載記事のために一から書き下ろした回があります。次にお読みいただくのは、その文案として書いた原稿を編集してメルマガに掲載した文章です。

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 「復帰への努力から逃げている」「自分から逃げている」「現実逃避している」…。

 寝食を忘れてゲームや動画、その他インターネットなどに没頭しているわが子について、親御さんはよくこの「逃げている」という世間でよく使われる言葉をこぼされます。
 それどころか、本人もまた、往々にして「自分は逃げている」と語る場合があります。

 確かに「不登校/ひきこもり状態=学校/社会からの逃避」というイメージは、社会全体を覆っているかのようです。

 では「逃げる」とは何でしょうか。

 人は「(今の)自分にはかなわない」「自分の身の安全を脅かされる」などと感じた人や動物や自然災害からは、誰もが逃げて身の安全を確保します。これに異論は出ないでしょう。

 では、不登校/ひきこもり状態の本人は何から逃げて、何を確保しようとしているのでしょうか。

 それは「学校/社会にいたときに自分の心の安全を脅かす何かに直面したとき、そこから逃げて心の安全を確保している状態」だと思います。

 「身の安全」も「心の安全」も、どちらも人にとって大切なものです。

 ところが、この「身」と「心」というひと文字違うだけで、世間の受け止め方は大きく違ってしまいます。つまり「身の安全を確保する」ことは認められても「心の安全を確保する」ことはほとんど認められないわけです。

 ということは、本人が学校/社会からいったん逃げて心の安全を確保しようとしても、それを家族が許してくれなければ心は危険にさらされたままになります。

 そのため、本人はもっと逃げる必要が出てきます。それが冒頭で挙げた「ゲームや動画、その他インターネットなど」に没頭する姿です。あるいは、暴言や暴力などの“荒れ”や自室から出てこないなどの“閉じこもり”もそれに当てはまるでしょう。

 ご家族が「学校/社会に何かしら自分を脅かすものを見出して逃げたのだろう」と受け止めて、本人が心の安全を確保することを認めさえすれば、本人はもっと逃げる必要がなくなり、安心して生活することができるようになっていくわけです。

 つまり人は「逃げてはいけない」のではなく「身を守るためなら逃げてもいい」のでもなく「目的はどうあれ逃げていい」し、周りの人たちは「上手に逃がしてあげればいい」のです。

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 いかがでしょうか。「不登校新聞」の連載は終わっています(web版を購読している方は現在もお読みいただけます)が、本欄ではこれからも、このような不登校/ひきこもり状態への理解と対応のあり方を提案していきます。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第230号(2018年6月6日)

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※前々回の末尾欄外でお知らせした「OSDよりそいネットワーク」の親向け連続学習動画第9回のミニ講演で読み上げた文章です。冒頭に書いたように「逃げている」という非難の言葉は、不登校/ひきこもり状態をめぐって頻繁に使われています。そこで、この身近な言葉について長く考えていた私が導き出したひとつの答えがこの文章です。

※このメルマガバックナンバー掲載文、拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本はほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

※この文章でメルマガ『ごかいの部屋』を読みたくなられた方は、こちらの配信サイトのページで読者登録をお願いいたします。同メルマガの内容は3号周期になっており、次にこのような文章が載るのは3月号です。

※ご存じの方もいらっしゃると思いますが、去年12月23日、私が所属している当事者グループ「暴力的「ひきこもり支援」施設問題を考える会・ひきこもり人権宣言作成班」が『ひきこもり人権宣言』を発表しました。ご関心の方は ↓ の公式ブログ記事をご覧ください。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。