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ウマ娘『新時代の扉』の感想と考察(ネタバレ有り)

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ウマ娘の映画を見て来た、これで三回目。

最初は違和感を感じるところもあって、期待外れだった印象。でも何度も見直したら良さが分かって、本当は素晴らしい作品だったと理解した。絶賛される理由が分かった。まさしく『ウマ娘』は1~2期のようにあるべきという固定概念を覆す、『ウマ娘』の新時代を開く作品だった。

なので、この記事ではこの映画を見て思ったことを、時系列を振り返りながら語っていきたいと思う。


感想(時系列順)

フジさんの走りに魅せられる若ポッケ(95 弥生賞)

冒頭のシーン、若ポッケ達がフジさんのレースを見に行くところ。

フジさんが黄金の円錐のエフェクトをばら撒いて行くんだけど、別に必殺技を発動しているわけじゃなくて、ポッケ視点の光景ですよっていう説明。視聴者からしたら「誇張しすぎじゃね」って感じだけど、ポッケにはああ見えた。レース場の雰囲気とか他の走者の走りがどうでも良くなるぐらい、あの時のフジさんが魅力的だった。そして最後まで見惚れてた。

これが終盤の再起のシーンに繋がる。

後で史実調べて知ったんだけど、このレースが終わってからポッケが入学するまで5年?ぐらい期間が空いてる。ナベさんの復帰を若手トレーナー達が驚いてたし、作中でそのぐらい経ってるのは間違いない。だとしたらこの時のポッケと取り巻き達って小学校高学年~中学生ぐらいで、フジさんの走りって本当に衝撃的だったんだろうなと思う。初めて生でプロ野球選手がホームラン撃つ瞬間を見たようなもんだから。

あとこれも勘違いしてたんだけど、この映画におけるポッケとフジさんの関係って、あるプロ選手に憧れてその道に進んだ少年と、怪我で引退してコーチになったその元プロ……って感じなんだよね。先輩後輩というよりは、教え子とコーチっていう。この辺も1~2期の印象とだいぶ異なる

ポッケの入学~デビュー戦ほか(オープニング)

トレセン学園に入学してから、デビュー戦を勝利するまでがサラッと流される。この速すぎる展開で、この映画をどう見たらよいかが視聴者に示される。

黙って見てると置いていかれるぞ!分かんないところは自分で補完しな!って……自分もそれで置いて行かれたから、初見時にこの映画の良さがあまりよく理解できなかった。

ポッケ vs タキオン1回目(00 ホープフルステークス)

デビュー後無敗のポッケが挑む、初めてのG1レース。楽屋でフジさんにリボンを直してもらうポッケ。一方で甘やかすなというナベさん。ここの三人はなんか親子みたい(笑)

観客席、若手トレーナーの桐生院葵と樫本理子がナベさんを見て、復帰の話が本当だったことに驚いている。ここで冒頭のシーンから何年も経っていることが示唆される。

肝心のレース。終盤、絶好のタイミングで仕掛けたのにタキオンに捲られて、そのまま千切られて敗北する。この時の屈辱がタキオンをライバル視するきっかけになる。

ちなみにポッケを抜いて独走するタキオンはめちゃくちゃ楽しそうだった。作画が誇張しすぎだから狂気にも見えるけど、シンプルに楽しくて夢中になってただけだと思う。

一方のポッケは、タキオンに捲られるまではウキウキしながら走って「面白れー!」と高ぶってた。後のシーンで分かるけど、タキオンはそんなポッケが瞳を輝かせながら走る様子をチラ見してて、「アレ、コイツ…」って顔をしてた。憧れにも軽蔑にも見える。

 (考察)なんでG1レースに?

このレース、映画だとG1の「ホープフルステークス」になってたけど史実だとG3の「Rたんぱ杯3歳S」だよね。競馬に詳しくないからよく知らないけど、昔はG3だったのがG1に差し替えられたとか?

追記
コメントで教えていただきました!ここは私が知らなかっただけです。
ウマ娘では出走レースは現代のものに変更されるそうです。
なんで史実との食い違いはあんま気にしなくてよさそう

勝手な推測なんだけど、この違いは「ここからは架空の物語ですよ」ってことを強調しているんだと思う。史実通りの展開を期待している視聴者に対して、これはIFストーリーなのでそれを踏まえたうえで見てくださいっていうメッセージ。

オペラオーのレースを観戦する二人(00 有馬)

ポッケとタキオンがそれぞれ別の場所で観戦していたレース。

あと数百mなのに前を全部塞がれるという絶望的な状況からオペラオーが逆転勝利を見せ、観客を沸かせていた。同じくらいの天才であるフジさんが「有り得ない」と驚くほどで、ここでの持ち上げが終盤の勝負に繋がる。

ポッケは感動してたけど、タキオンはどう思っていたんだろうか。

タキオンに挑戦状を叩きつけるポッケ(~00 共同通信杯)

どっちが上か決めようぜ!のシーンね。

この時のタキオンは明らかにポッケを格下に見てた。まず声をかけられても相手にしていないし、リベンジ宣言されても君が?って感じで、あとはポッケが前のレースでウキウキしながら走っているのを思い出してゲラゲラ笑ってた。受けて立つよ、というよりは格の違いを見せてあげるよって雰囲気。ここのお互いフッフッフッて笑うとこは面白かった(笑)その後の併走シーンも「実験だー!」とか言って、あんまライバルとは見ていない。

次の共同通信杯でポッケの走りを見ておおー!って顔してたけど、モルモットとして優秀なのが分かったから喜んだって感じで、ライバルの成長に期待しているようには見えなかった。この辺の見下す描写は後のシーンに繋がる。

この時のタキオンはPCの前でブツブツ言ったり、ポッケとライバル達の併走を観察してご満悦だったり、ポッケの成長ぶりをみて喜んだりと大興奮である。

めっちゃご満悦なタキオン(01 弥生賞)

弥生賞でタキオンが独り勝ちするシーン。ここのタキオンもクソ楽しそう。でも途中で主観視点になって、足元をチラ見して足の容態を心配してる。

途中から黄金の足跡のエフェクトが出るけど、これも必殺技じゃなくてタキオン視点の光景だと思う。あまりの楽しさに、周囲が見えなくなるぐらい夢中になってたってことかな。本当にこう、自分の夢(=プランA)のために走るのが楽しくて仕方がないんだろうね。

でも途中で眼前にある自分の幻影がパリーン!って割れて、なんか「ああ、そうなのか…」って顔をする。いつか自分が壊れることを悟った的な。小説版によればここで、自分の最高点が次の皐月賞であることを悟ったらしい。映画でも同じかは分からない。

ゴールした後、足を心配しながら観客席のポッケを見て、迷うような表情を見せる。プランAで行きたいけど身体がもたないし、ポッケくん達に任せるか…….うーんって。でもポッケはタキオンの事情なんて知らんから、それをやるやんって顔で見てた。微妙に思っていることが噛み合っていない。

ここに限った話じゃないけど、この映画は全体を通して気持ちのズレが強調されていて、それが話を面白くしている。

フジさんから夢を託されるポッケ

学園から部室に向かう途中?のポッケとフジさん。そこでポッケはフジさんから過去の話を聞かされる。自分はあの弥生賞を最後に引退したため、ナベさんを夢である「日本ダービー」の舞台に連れて行ってやれなかった、それがずっと心残りだと。そして自分の代わりにその夢を叶えて欲しいと言われる。ポッケは任せてください!って返す。

ここ名シーンに見えるけど、実は一方的なエゴの押し付けなんだよね。悪い言い方をすれば自分の叶えられなかった夢を、子供に叶えさせようとする親みたいな。フジさんも自覚してたけど、あんまり先輩のやるべきことではない。

でもポッケは全然嫌がる素振りも見せず、引き受けてやった。この時のポッケはフジさんにとってのヒーロー。でもこのフジさんの行動が、後々ポッケを苦しませることになる。

ポッケ vs タキオン2回目(01 皐月賞)

いきなり時系列が飛んで、皐月賞の楽屋でポッケとタキオンが向かい合ってる。

っつーわけで
、勝負だ!って感じにポッケはタキオンに啖呵を切る。ここで前のシーンがタキオンに説明した内容、つまり回想シーンだったと分かる。自分が抱く正義(=フジさんの夢)を語る的な。

その話を聞いたタキオンは真剣な表情で、黙ったまま。少し考えた後、ポッケや同期達にこの皐月賞で最高の走りを見せてやると決意する。さっきの話を聞いて、ポッケを認めたんだと思う。

そして本番、圧倒的な走りを見せてライバル達を絶句させる。後でフジさんが補足するけど、これはライバル達への「自分を超えてみろ」という挑戦状だった。でも次で補足されるけど、あまりに強すぎてポッケは(自分じゃ)追い付けないと絶望してしまった。

勝ち逃げ記者会見~決別

皐月賞が終わって突然の休止表明、すなわち勝ち逃げ記者会見を見て絶句するトレセン学園の生徒諸君。このシーン、カフェが真剣な表情で見ているのがイイ。映画のタキカフェって仲悪そうに見えるけど、実際は要所要所でお互い気にかけてるんだよね。だからこそ後半の引きこもりタキオンに、カフェはムカついたんだと思う。

記者会見後、同期三人とタキオンが部屋で言い合い。価値観が全然違うから分かり合えなくて、ダンツとポッケの二人はタキオンを見限ってどっかに行く。カフェも同じ、でも若干察してるっぽかった?

この時の「私の走りを見てどう思った?」はおそらく闘争心を引き出す目的で言った。しかし格の違いを見せつけられたポッケにとってはトドメの一撃になってしまった……(笑)タキオンが思っていた以上にポッケのメンタルは弱かった。

あとタキオンは何ならアドバイザーになってもいい!って陽気に振舞うんだけど、三人がいなくなった後、素に戻って悲しそうな表情をする。本当は走りたいけど、走れない的な。タキオンは生まれつき身体が脆いから、怪我を治してもすぐ前の状態に戻れるわけじゃないし、また怪我をする危険もある。それにポッケからフジさんのことを聞いてるから、中途半端な意思でダービーに参加するのも気が引ける。夢を叶える観点からしても自分はこのまま大人しくして、プランBに移行した方がいい。だから割り切るんだけど、どこか未練がある……そういうシーンに見える。

一方のポッケはナベさんに説得され、なんとか気分を落ち着かせていた。ダービーを目指す今のポッケは、自分にとってもヒーローで、その頑張りにはとても感謝している。だからこそ自暴自棄になって怪我とかして欲しくない。記者会見の件も、タキオンほどの天才が折れるなら余程の事情があるはずと。

この時の説得はポッケの悩みと少しズレてるように感じた。フジさんと自分の挫折の話を引き合いに出して無理やり気を逸らしているだけで、一応はポッケの心に響いたんだけど、あんまり根本的な解決には至ってないように思えた。というか実際解決してなかったよね。ただナベさんも「ウマ娘の心はウマ娘にしか分からない」的なことを言ってたから、自覚のうえで話したんだろう。

ポッケ vs ダンツ(01 日本ダービー)

時系列が飛んで日本ダービーへ。ポッケが明確な答えを出さないまま場面が変わったから、心に蟠りを抱えたままってことかな。

レースではダンツと激しい競り合いを見せる。二人とも皐月賞のアレが自分達への挑戦状だと理解していて、互いに叫びながら矜持をぶつけ合っていく。フジさんから託された「夢」のことは、あんま意識してなさそう?

ポ:アイツの限界を超えてやる!
ダ:私だって!
ポ:自分の限界を超えてやる…….そうだろダンツ!?
ダ:私だって、勝ちたい!
ポ:最強は!
ダ:勝つのは!
両:俺(私)だー!

そんな二人のやり取りを見たタキオンは大興奮(嬉しそう)

戦いはポッケの勝ちに終わるが、何を思ったかポッケはうおおおおおおお!と叫び声をあげる。後のシーンで補足されるけど、競り合いの時にポッケは「自分じゃタキオンを超えられない」と心が折れ、さらにはずっと最強なんかじゃなかった、自分は今まで”強者気取り”だったと認めてしまう。この叫びはそんな自分に対する感情の爆発だった。あんだけ熱い展開なのに「限界を超えられませんでしたw」ってオチなのが悲しい。でもそれがこの映画の面白いところ。

フジさん、ナベさんもポッケの心情をあんまり理解できてなくて、絶叫シーンを見て「ポッケの奴め…(笑)」みたいな表情。ここでも気持ちのズレが描写されてる。

観客席でレースを見ていたタキオンも、このままいけば誰かがプランBを完遂してくれる!ってご満悦になるんだけど、すぐに「誰かが……?」と我に返る。自分でやらなくていいのか的な。その後にポッケの慟哭が始まり、その絶叫ぶりと異様な姿から目が離せなくなる。タキオンはポッケが「フジさんのために」走っていることを知っていたはずだから、普通ならあそこは勝利の雄叫びと解釈するはず。でもあの場面ではすごく驚いていた。あるいはポッケのぐちゃぐちゃな感情が伝わっていたようにも見える。

自分は、ここのタキオンの表情は「罪の意識」だと思う。発破をかけるつもりで見せた皐月賞の「挑戦状」が、実はポッケを苦しめていたことが分かり、自分の過ちに気付くみたいな。今まではモルモットとして他人を格下に見ていたけど、皐月賞で初めてポッケという対等な相手が生まれたから、そのポッケが苦しむ姿を見てなんとなく自覚したのかな。もしそうなら観客もダンカフェもナベフジも、みんなポッケの苦しみに気付いていないのに、タキオンだけ気付いたっていうのは皮肉過ぎる。

ここのダービーの競り合いは名シーンなんだけど、一方で主役三人の想いが、それぞれ見当違いな方向へ向かって行く迷シーンでもある。ナベさんは「ウマ娘の心はウマ娘にしか分からない」って言ってたけど、実際はウマ娘同士でも分かり合えていない。

ポッケ
△背負ったはずの夢を忘れ、タキオンを超えるためにダービーで走っていた
〇でも結果的に勝利しているので、フジナベの無念は晴らされた

フジさん
△自分の夢が後輩を苦しめていると気付かず、客席で呑気に笑っていた
〇でも夢の話でタキオンを本気にさせたので、皐月賞での勝負に寄与した
     
タキオン
△皐月賞の件、好敵手への挑戦状のつもりがむしろ心をへし折ってしまった
〇しかし作中で唯一、ポッケの慟哭の意味に気付いた(推測)

取材~夏合宿

ダービーウマ娘としての取材を受けるポッケ。気持ちを切り替えたのか明るい表情で、すげーテンション上がった!と陽気に振舞っていた。街中にポスターが貼ってあってみんなのヒーロー扱い。

時系列が飛んで、夏合宿のシーズンへ。荷物を畳む描写からナベさんもついて行ったことが分かる。行きのバスで取材の写真を眺めるポッケ、なんだか暗い表情。

合宿所へ到着し浜辺へ。カフェの水着が可愛い。ポッケがトレーニングを始めようとした時、キラキラのアクセサリが地面に落っこちる。後のシーンで、この時にキズをつけてしまったことが分かる。アクセサリ=ポッケのプライドって解釈で良さそう、後で直してもらうシーンがあるし。明るく振舞ってたけど、実は物凄く不安定だったってことだね。

夏祭り~帰りのバス

夏祭りに行くポッケとフジさん。ここでフジさんはちょっとデリカシーに欠けた行動を取ってしまう。

・「ポッケの走りを見て、レースに出たくなった」というジョーク
・もしタキオンがいたら~と過去の話を蒸し返す
・タキオンの皐月賞での走りを見てどう思ったか聞く

この話を聞いてポッケは動揺する。忘れたい出来事だもんね。先輩の前だから平静を装ってたけど、各々の描写から不安定なのは丸分かり。でもフジさんはそんなポッケの態度をよく分かってないみたいなフリ。このフジさんの行動が仇になり、ポッケは帰りのバスで「お前はタキオンには勝てねぇ…」というトラウマに襲われる。めちゃくちゃビビってたね。

後でフォローが入るけど、夏祭りの時のフジさんは、ポッケが過去の自分を乗り越えたと思っていたみたい。だから上の話題はポッケを試すためではなく、改めて昔の自分を客観的に見てどう思った~的な意味で振ったんだろう。ポッケが無理に明るく振舞ってたから、誤解しちゃったと思われる。

再び気持ちのズレ。お互い理解し合っているように見えて、実は間に壁があるみたいな描写。

レースで連敗するポッケ(01 札幌記念~菊花賞)

夏合宿で蘇ったトラウマに襲われ続けるポッケ、札幌記念~菊花賞の2レースで連敗する。必死にトレーニングするけどその姿はどこか空しい。ナベさんに注意されても「うっせぇ!」って一蹴。

この時のポッケを見るフジさんは、とても悲しそうな、後悔してそうな表情だった。自分の押し付けたエゴや、微妙な気持ちのズレが後輩を苦しめていたと悟ったのかな。単に心配していただけとも解釈できるけど。

トレーニングが終わり、取り巻きからファミレスに誘われるポッケ。二つ返事で承諾して三人について行く。でも部室にアクセサリを置き忘れてしまう。心ここにあらずって意味かな。置き去りのアクセに気付いたフジさんは何かを察する。

部屋に引き籠もるタキオン(上と同時系列)

ポッケが苦しむ裏でタキオンが何をしていたかが描かれる。部屋に引き籠もって、ひたすらレースの実況を見ていた(笑)部屋も散らかっていて、前半のハイテンションぶりと比べると、だいぶ落ち込んでいることが分かる。もう一つの夢であるプランBに切り替え、ダービーで上手くいくことを確信したはずなのに、一方で好敵手であるポッケが苦しんでいたことも分かって、どこか救われない感じ。

部屋の散らかり具合=タキオンの心の乱れ、だよね。よく見ると部屋に銀トロフィーが飾ってある。銀だからたぶん弥生賞だよね。あの頃の楽しく走っていた自分に未練があるんだろうな。「勝敗なんでどうでもいい」って言ってたけど、だったらトロフィーなんか大事にしないはずで、実際はあの台詞も建前だったと分かる。

PCで実況見ながら足をトントン。可愛いね、走りたいんだね。ちなみにこの時見ていたレースは、カフェが勝った菊花賞。しかしそんなタキオンの行動を見たカフェは、自分のレースをダシに使われて不愉快だったのかメチャクチャ嫌そうな表情をしていた(笑)

この映画のダンカフェって終始ブレなくて、タキオンから叩きつけられた「挑戦状」のことも理解していた。ダンツは勝ちたい!カフェは追い付きます!って……にもかかわらず、自分達二人を差し置いてポッケにお熱(というか後悔)だったから腹が立ったんだろうな。見せつけてあげます!って言ってたし。

フジさんに夢を見せてもらうポッケ

苦しむポッケの姿を見てようやく事態を察したフジさんは、後輩のために、自分の過ちを正すためにある決意を固め、ポッケと翌朝会う約束をする。そして当日、引退と共に捨てたはずの勝負服を着て現れる。ポッケに併走しようと言い、夏祭りでポッケを傷つけてしまったジョークについても、あれは本当の気持ちで嘘じゃないと改める。

併走を始めてすぐ、ポッケはトラウマに襲われすごく苦しそうな表情をする。周囲の景色が消えてしまうぐらいだから、かなりの重症だった。でもすぐにフジさんがスッと前に出て、現役時代の走りを見せてやる。するとポッケの目に、自分が子供の頃に見た黄金の円錐のエフェクトが出る。さっきまでのトラウマ映像は消え去り、画面は全部それで埋め尽くされる。つまりポッケのトラウマが、フジさんの見せた夢で上書きされた。

前の方にいるフジさんの幻影は、まあ現役時代の自分だよね。全然追いつけていなくて、状況的にはタキオンに追いつけないポッケに似ている。でもフジさんは諦めず、全速力で追い付こうとしてみせた。その姿にポッケは魅了される。

併走が終わる頃、ポッケはトラウマを乗り越えており、デビュー前後もしくはそれより前の、楽しく走っていた頃の自分を取り戻していた。フジさんもそんなポッケを見て安心する。何度も気持ちのすれ違いを起こしていた二人がようやく分かり合えた瞬間で、ポッケは次のジャパンカップに向けて再起することをフジさんに誓う。

一方のフジさんも現役時代には程遠いと知りつつも、立ち上がったポッケの姿を見て、自分も再びトゥインクルシリーズの舞台に上がることを決める。そして二人の併走を陰ながら見ていたナベさんに師事をお願いする。

ここは本作屈指の名シーンだと思う。この映画の良さが分かんなかったって人でも、ここだけは共感できたんじゃないかな。自分も最初はここぐらいしかよく分かんなかった。

ちなみに併走の前日、ポッケから壊れたアクセサリを預かっていて、直したうえで返している。ポッケの砕かれたプライドを直してやったって意味だよね。

練習再開、タキオンとの和解

再起したポッケは次のジャパンカップに向けて練習する。この時、元気を取り戻したポッケを見て、一緒に練習していたカフェが「もう大丈夫みたいですね」って言ってくれる……優しい!体調不良に気付いてたけど、必ず立ち直ると信じていたみたいな。フジさんもいて楽しそうだった。

ここでタキオン以外の主要キャラ全員が、ペースを合わせて橋の上を一緒に走っていく。ナベさんはバイクだったけどね。それまで一緒に進んでいるように見えて実はバラバラだったみんなの気持ちが、一つになったことを示す。それと同時にタキオンの孤立も強調される。

場面がタキオンの部屋へ、相変わらず引き籠もっていた。部屋は信じられないぐらい汚い。カフェかわいそう(笑)そこへポッケが現れて、なんか色々事情を説明してタキオンに併走をお願いする。でもタキオンは断って、ポッケも無理に誘わずササッといなくなる。

ここはまあ、記者会見の一件で決別していた二人が和解するシーンだよね。ポッケはタキオンにも事情があることを、タキオンもポッケが自分ではなくダンツやカフェと一緒に走った方が良いことを認めた。ポッケは部屋を出ていき、タキオンも追いかけない。

この時の窓にぶら下がっていたキラキラのアクセサリ(もっと前からあった?)は、ポッケへの申し訳なさとか後悔とかその辺の気持ち、要するに依存心を示唆していると思う。物語の前半と立場が逆転している。独り立ちしたポッケと、それにすがるタキオン。世界観的にはその辺で売ってるアクセなんだろう。ポッケとのやり取りの後、あれだけ散らかっていた部屋が掃除されて、タキオンが気持ちを整理したことが示唆される。窓のカーテンも閉められて、さっきのアクセサリも画面から消える。つまり依存をやめた。

だから、ここが物語のゴールなんだよね。勝手にライバル視して、因縁つけて、お互いの矜持をぶつけ合っていた。でも価値観の違いからすれ違って、関係が破綻して、二人ともプライドが維持できなくなって落ち込んだ。でも何とか持ち直して、互いに相手を認めて関係を修復し、別々の道を歩むことを決めた。

でもこれだとタキオンは救われないままでなんだか悲しい。
だからまだ物語は続く。

ポッケ vs オペラオー(01 ジャパンカップ)

ジャパンカップに出走するポッケ。レースの緊張感に圧倒されるが、同時に興奮も覚える。この辺の描写は序盤のG1レースと同じで、ポッケがかつての純粋にレースを楽しんでいた頃に立ち返ったことを示唆してる。

一方で観客席のタキオン、レースを見物しながら「待ってくれ……」とぼやく。ポッケが自分の道を見出せたのに対して、こっちはまだ答えを出せていない感じ。双眼鏡とかPCとか持ってきていなくて、顔も俯いているし、何より最後列にいるからプランB目的で来ているわけではなさそう。

この時のタキオンってプランAとB、両方の夢が断たれた状態だと思う。Aは身体が追い付いてこないからできない、Bもポッケを苦しめていたことを自覚したから、反省した以上やる気はない。状況的にフジさんに似ている。だから走る意欲を失っていて、単純に寂しい的な?

ポッケ視点に戻って、走者達は最後の直線に差し掛かる。ここで急にポッケがよそ見をし、タキオンと目を合わせ「先、行くぜ」と言うんだけど……ここからちょっと時系列と描写がごちゃ混ぜになってて、鵜呑みにすると話の整合性が取れなくなるから、整理していく。

自分が思う話の流れはこう。

・ポッケが「左側」を見る(観客席は右側、つまり見たのは隣の走者
・「先、行くぜ」(まだ仕掛けないのか?なら先に行くぜ)
・ポッケが視線を元に戻す(前の方にいるオペラオーを見た?)
・オペラオーが動き、周囲に発破をかける(そうだついて来い!)
・それに応じるドトウ、二人で競り合いをする
・他の走者達とポッケもそれに続く
・ポッケが心情を語る(たまんねぇな的な)

ーーーーここからタキオンのシーンーーーー
走者達の”楽しそうな”様子にタキオンは魅了され、瞳にハイライトが蘇る
・決着前だが、見ていたタキオンも走りたくなりレース場を飛び出していく
・タキオンも走りながら心情を語る(自分で”限界の先”へ行くんだ的な)
ーーーーーー前のシーンに戻るーーーーーー

・あるタイミングで仕掛けるポッケ、同時に自分のトラウマを打ち砕く
・残り百mぐらい?の地点でオペラオーとポッケが激しく競り合う
・ポッケがオペラオーに勝利する
・そこで己の”限界の先”にある光景を見る(ハッとした表情)
・勝利の雄たけびを上げるポッケ、うおおおおおおおおおおおお!

あくまで自分なりの解釈。

タキオンが飛び出すシーンは、どこに入れても筋は通ると思う。この時は夢を断たれて絶望している状態だから、あの時のレースに何かしらの希望を見出したと思われる。

①先、行くぜ   → ポッケの隣の走者に自己投影していた
②激しい競り合い → 楽しそうな様子に惹かれた
③トラウマを砕く → 自分を乗り越えるポッケの強さに惹かれた
④ゴールの瞬間  → 成長したポッケの姿に勇気を貰った
⑤ゴールした後  → ポッケが見た”限界の先”が気になり、再起を決めた

走っているポッケと観客席のタキオンの目が合ったってのは、可能性としては低いと思う。ポッケは観客席の方を見てないし、あのタイミングでタキオンがハッ!ってするのも謎。だから有り得るとしたら、ポッケの隣にいる走者に自己投影してて、ポッケがその走者を見たから驚いてつい走り出してしまったとか。

自分は②でポッケが昔の自分に立ち返ったように、タキオンもただ楽しくて走ってた子供時代を思い出したと解釈したい。小説だと③か④で、レースが終わったのを見届けてから飛び出したことになってた。選択肢がいっぱいあるのに、どれ取っても良い結末になるのはイイね

トラウマを打ち砕く姿は、日本ダービーの時に重なるよね。あの時はできなかったことが、成長した今ならできる。ここに「最強は俺だー!」を重ねても面白いと思う。あるいは最強に固執しなくなったことが、成長の証ってことだろうか。

エピローグ

メインキャラ四人が集ってレース場に向かう。時系列は全くもって不明。史実だともう四人が集まることはないから、世界観的にはドリームトロフィーリーグ?

タキオンの「勝たせてもらうよ」からタキオンがライバル達を対等に見ていて、尚且つ本気だと分かる。ポッケが成長したように、タキオンも成長したことが示唆される。ダンカフェも嬉しそう。

でもポッケとは仲直りしたけど、ダンカフェとは和解するシーンはなかったよね。にもかかわらず受け入れられているってことは、描かれていないだけで何らかの形で二人に認められたんだろうか。特にカフェはタキオンの態度にイライラしてたよね(笑)

四人が出口に向かうシーンは、映画冒頭のウマ娘それは~のモノローグ最後の描写に重なる。

最後のライブ、やたら会場が本格的である。この時点の四人は全国レベルの超有名人ってことかな?この時のカフェが可愛い(重要)

考察

実は劇中劇だった?

映画のお話はウマ娘達が演じた舞台、劇中劇なんじゃないかという考察。

・史実と違う、タキオンとフジが復帰するというIFストーリー
・時系列とあってないウマ娘達の外見
 ⇒作中で5年?は経ってるのにポッケと取り巻き達の外見が変わってない
・1~2期、RTTTとは明らかに違うノリ
・本来G3のところがG1に(=フィクションと強調、つまり舞台上の物語)
・暗転中に金色のエフェクトが走る ← 真っ暗な舞台上での演出
・フジさんが放つ”黄金の円錐”のエフェクト ← 天井からのライト
・それ以外のエフェクトも無駄に激しく、そして眩しい
・明らかに物理法則を無視した動き(周囲が止まっているなか高速移動)
・誇張しすぎの演出(オペラオーの捲り、ポッケの出遅れとか)
・演技がかった表情、大げさすぎる反応、くどい作画崩壊
・飛び飛びの時系列、解釈の分かれるような描写
・重要じゃないと言わんばかりに、サラッと流される練習シーン
・好きに解釈できるジャパンカップのくだり
・俺たちの戦いはこれからだオチ(=史実通りの展開になることを否定)
・最後にライブ(四人のレースを飛ばしてまで入れてる)
・いくら何でも汚れすぎなタキカフェの部屋 ← 流石に怒るでしょw
・全くレースも練習もしないのに、何故か退学にならないタキオン
・普段は浮いているオペラオーが逆に馴染んでいる

初見でいつものウマ娘っぽくないなって思ったのも、だいたい上で挙げた要素が原因。これってなんかお芝居のやり方と似ている気がする。普通だったら「ここおかしい!」って思う箇所も、それがお芝居だと知っていれば「そういうもの」だと割り切れるよね。

つまり、フジキセキとアグネスタキオンが”もし走り続けていたら"……という「夢」をウマ娘達がお芝居として見せてくれた。最後のライブは見てくれた視聴者達へのお礼。出演者が『ウマ娘』っていう二次元キャラなのも、それが現実で起こった出来事ではなく舞台上の物語であることを強調している。

エフェクトが眩しいのは舞台装置を使っているから。そこまで誇張するか?って感じの作画、演出はそれが演技だから。オペラオーが演技がかった話し方をしつつも、物語に馴染んでいるのは彼女が演技のプロだからw

いや、これは勝手な妄想。でも本当にこの映画はよく出来てると思う。

終わりに

1回目見た時の感想は、正直言うと期待はずれだった。ただそれは『ウマ娘』は1~2期のような王道モノであるべき、RTTTのようにすんなり受け入れられる内容であるべき、っていう前提があったから。

何度か見直して、いや本当はそうじゃないんだって気付いて、気持ちを切り替えてもう一度見直したら、実はとても面白い作品だと分かった。もちろん映画には映画の問題点もあるんだろうけど、それは1~2期やRTTTだって同じことだし、これはこれで有りだろう。

もちろんつまんないっていう人の気持ちもよく分かる。描写に説得力がないのも分かる、脇役やその他大勢の扱いが微妙なのも分かる、自分も最初はそう思った。サラッとトレーニングするシーンが流れて、これでポッケ達は強くなりましたよーって……んん?いや分かるけど、そこってウマ娘なら重要なとこじゃないの?〇〇の扱い悪くない?とかそう思うよね。

なんていうかスポ根モノじゃなくて、ポッケとタキオンの青春って捉えた方がいいかも。ポッケとタキオンっていうちょっと子供っぽい部分を抱えた二人が出会って、互いに成長していく物語。たぶんもう一回見たら、また新しい発見があるんだろうな。

以上、映画の物語を振り返りながらの感想でした。読んでいただきありがとうございました。

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