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コラム10 なぜ男の子は外傷が多いのか?

病院の診察室の椅子というのは、医者は背もたれ付きの椅子になっていますが、患者さんが座る椅子は丸椅子です。


患者さん用の丸椅子

別に差別しているわけではありません。
医者は患者診察の際に背中から診察することがよくありますから(背部からの方が呼吸音は聞き取りやすいし、背中をトントンと叩いて診察することもある)、わざわざ医者が患者の後ろに回り込まなくていいように回転式になっており、更に背中の診察がしやすいように背もたれがないんですね。
この丸椅子ですが、幼稚園~小学生の男の子が診察室に入ってくるなり、ず~っと夢中になって回し続けます(もしくは自分ごとまわります)。
お母さんが止めて「ちゃんと座りなさい」と言っても聞かない。
女の子はほとんど回しません。
回すのは男の子ばかり。
たまに自分ごとめっちゃ勢いをつけて回転している子が、立ち上がった瞬間に目を回して転び、頭を打って泣き出します。
バカですね(失礼)。

あ、ちなみに僕もお仲間でした。
椅子に乗れば回転する。回転しない椅子は後ろに傾けてギリギリのふらふらを楽しんでいるうちに後ろに転倒する。
お風呂場では洗面器を足に装着してスケートして転倒する。
塀や2階から傘を開いて飛び降りる。
スパイダーマンの真似をして、ビルの間をよじ登っていて滑落する。
夏に余った花火を全部分解して、火薬を集めて火をつける…(絶対真似しちゃダメ)。
コンセントにシャープペンシルの芯を…(本当に死にそうになったので略)
ああ、書いていて自分の親の心労を思ってかわいそうになってきた。
あ、ちなみにこれらはほんの一部で、もっと危ないこともいっぱいして、何度も病院送りになりました。
現在何もなく元気なのは、本当にラッキーだな…と思っています。

このような典型的な男の子のバカな行動は、往々にして不幸な結果をもたらします。
小児外科や小児科を専門にしている人は分かると思いますが、この前コラムでお話した異物誤飲や、外傷は圧倒的に男児が多いのです。
特に「それは自分のせいだろ」と思う事故は、ほぼほぼ男児です。
男の子は女の子と違い、「失敗から学ぶ」傾向にあるため、一見無謀なこと、誰でも危ないとわかるようなことでも「とりあえずやってみる」ことが多いのです。
こういう行動は母親から見ると全くもって理解不能ですから、「なんで男の子ってこんなバカなの…!?」と映ります。

なぜなのか?
今日はそれを考えます。

まず前提として、男女の脳の働きは違うというのは確定した事実です。

「男の子と女の子は違う」というと、よく「それは子育てで洗脳されているせいだ。男の子らしくとか女の子らしくとか育てるやり方が~」という反論があったりしますが、違います。
男の子と、女の子の嗜好、行動様式…。これらが生まれ持って明らかに違うのは、小児に関わる職業の人みんなが分かっていることです。
そして、脳の働きが実際に違うこともわかっています。
これはMRIやCTで見て分かるような形の違いではありません。
もっと小さな、機能的レベルでの違いです。
参考文献は
Sakamoto H. Brain-spinal cord neural circuits controlling male sexual function and behavior. Neurosci Res. 2012; 72(2):103-16
Zhou JN, Hofman MA, Gooren LJ, Swaab DF. A sex difference in the human brain and its relation to transsexuality. Nature. 1995 2;378(6552):68-70
など。興味がある人は英文で読んでみてください。

なぜこのような違いが生まれるのかは、男性ホルモン(アンドロゲン)のせいであるとされています。
遺伝子としての男と女の違いは、性染色体の違いです。
男の染色体は、46XY。女の染色体は46XX。
この「46」というのは染色体の数ですね。染色体は2本1組になっています。
22組44本が常染色体で、残りの1組2本がXY だと男。XXだと女です。
つまりは「Y染色体があると男になる」仕組みです。
Y染色体の中には「SRY遺伝子」というものがあり、これが働くと胎児の時期に体に様々な変化が起こり、男性の体になっていきます。
その際に、「男の体になれ~」という指令を伝えるために作られるのが男性ホルモン(アンドロゲン)であり、その中でもテストステロンが頑張ります。
すごく濃度が高くなります。
このテストステロンの濃度が、脳にも影響を及ぼすことで脳の違いが生まれます。
これは、ネズミさんでは解剖で結論がでていますので確定です。
人間では死後しか解剖できませんが、同じだろうということになっています。

このように、体が作られる際の大量の男性ホルモンの影響が胎児期の脳に変化をもたらす。
この作用を、「アンドロゲンシャワー」と呼びます。


シャワー

これが男女の脳の差を作り出し、行動様式や嗜好に差をつけているのだ…というのが定説になっています。

なぜなのか?

なんでこんな仕組みになっているんでしょうね。
神様がそう設計したから…という説明は僕は嫌いです。
別に神を信じてないわけではなく、科学的な話をしているのに神様出してくるのは思考放棄だからです。

今の世の中では男女平等、ジェンダーフリーが主流かもしれませんが、ほんの少し前まではそうではありませんでした。
男女には純然たる役割分担があったのです。
男は力が強く狩りをする、攻める役目。
女は子育てなど、守る役目。
攻め入って、エモノを得るためにはトライ&エラーで学習することは欠かせません。
そういう(一見バカな行動をする)オスが生き残りやすく、子孫を残してきた末が、現在の違いを生み出しているのだろう…と考察されます。

動物だともっと顕著にあらわれることあります。


「JOJO」より

漫画「JOJO」で敵役のプッチ神父が主人公を煽るため。崖に巣を作るツバメの中には短命なものがいることを例に出して、こんなことを言います。
まあ、これは煽りなので、本当は少し違います。
崖に巣を作るツバメは、崖から一気に海面まで急降下し、海面近くにいる虫を捕食します。
ふつうのツバメはちゃんと自分が海面スレスレでターンできる限界を見極めて、安全な範囲でエサとりをします。
でも、エサになる虫って、海面スレスレになればなるほど多いわけです。
すると、自分の力を過信してか、何も考えずか、限界を超えて突っ込んでいくツバメがいるんですよね…。
そして、激突して死にます。
はい、そういうのはオスですね。
でも、そのスレスレを見極めて生き延びるオスはたくさんエサも食べて強くなるし、子孫も残していくわけです。
強い遺伝子を残していくための仕組みとしても働いているわけですね。

つまりですね。
今日のコラムの結論。
「うちの男の子はバカなことばっかりして、大丈夫だろうか…?」と思っているそこの親御さんたち!
その子は、優秀なY染色体を持っている!
…のかもしれません。

<参考>
なし


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