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新海誠監督が“醜”に切り込んだ挑戦作

待望の最新作『すずめの戸締まり』が大ヒット公開中の新海誠監督。彼が2019年に発表した『天気の子』の魅力を、3ポイントで紹介する。

独創的なアイデア×スケール感が生み出す没入感

これまでにも「自然」をひとつのテーマに、すれ違う人々の心情をエモーショナルに描いた物語を紡ぎあげてきた新海監督。2016年の『君の名は。』では彗星の衝突を回避するために奮闘するという「自然の脅威」をエンタメ感たっぷりに描いたが、『天気の子』では規模感がさらに拡大。雨を晴れに変えられる「晴れ女」の少女と、彼女に運命的に出会った家出少年を軸に、“世界”の理を変えてしまうほどのダイナミックな物語が展開する。神にも似た能力に隠された衝撃の真実、その果てに突きつけられる究極の選択――。「こう来るのか」という斬新なアイデアがうねるように畳みかけ、本作独自のフィナーレまで没入させ続けてくれる。

“日常”を劇的に変える驚異の映像表現

オリジナリティあふれる世界観に説得力をもたらしているのは、微細かつ壮大な映像表現の数々。町の肖像をとにかくリアルに描写し、現実とオーバーラップさせてからファンタジックな要素を足していく方法論が非常に効いている。そのハイライトといえるのが、多彩な雨/晴れの表情。時にしとしとと、或いは台風のように荒々しく降り注ぐ雨と、雲を切り裂いて差し込む太陽を劇的に描き出している。実在の街と、自然現象という要素自体は我々の日常となんら変わらないが、作画から縦横無尽なカメラワークまでアニメーションならではの表現を駆使し、“当たり前”を劇的に変えることで、「知っている事象がまるで別のものに見える」驚きと感動を生み出しているのだ。

美醜の両面を描く挑戦、引き立つ“愛”の物語

ただ、『天気の子』は美しいものだけを描いた娯楽大作ではない。むしろその逆で、新海監督が自らの代名詞でもある「綺麗さ」に反逆するように「醜さ」をもしっかりと見つめていく。街の片隅はゴミが散乱していて汚れ切っており、自分たちの力で生き抜こうとする少年少女を貧困が縛り付ける。“晴れ女”として成功しても、大衆はふたりを消費し尽くそうとし、大人たちは信用できない。行政に排除され、支援は届かず、少年少女は引き裂かれていく――。世界を変える力を持っていながら、世界で孤立してしまうふたりの物語は実に哀切で皮肉だ。厚く暗い曇天のような状況下で、ひとつだけ輝く救いとなるのは? それは、RADWIMPSの主題歌「愛にできることはまだあるかい」に象徴される“愛”。しがらみを捨て去り、疾走する純粋な愛が向かうラストに、あなたは何を想うだろうか。

Text/SYO

SYOプロフィール

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema

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