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世界が震撼したSNSのドキュメンタリー

女優が少女に扮してSNSを始めると男性から続々と連絡が…ホラーのような恐怖、スリラーのような緊張、でもこれはドキュメンタリー。『SNS ー少女たちの10日間ー

SNS上の児童虐待を暴く大掛かりな実験的ドキュメンタリー

2020年にチェコで撮影されたドキュメンタリー映画が世界を震撼させました。18歳以上の女優3名に12~13歳の少女を演じてもらい、SNSのアカウントを始めるとどうなるか。大人からは見えにくいSNS上での児童虐待の実態を調査するドキュメンタリー映画がこの『SNS ー少女たちの10日間ー』です。3人の「少女」にリアリティを持たせるためスタジオの中に巨大な子供部屋のセットを作成。早速3人がSNSにアカウントを作成して友達募集をすると…大量の成人男性がコンタクトをしてくるのです。その数は10日間で2458人。彼らが少女たちに性的な行為を求めてきたり卑猥な写真を送りつけてきたりとおぞましい内容のため視聴には注意が必要です。あまりのおぞましさに思わず目を背けたくなりますが、これが事実なのです。

少女役のオーディションから既に見えるネット上の児童虐待の実態

映画はこの映画を撮影するためのオーディションから始まりますが、ここから既に本質に触れています。見た目が12歳ぐらいに見える女優(18歳以上)を募集し、製作者がネット上の児童虐待についての映画だと説明します。そこで女優が語るのは「私も経験がある」という生々しい体験談。オーディションを受けた23人中19人がネット上での児童虐待を経験していたというのです。選ばれた3人の女優には「12歳であることを強調する」「誘惑しない」等のルールと、彼女たちを守るために「何度も求められたら写真を送る(偽の合成写真)」「現場の精神科医や弁護士に相談する」等のルールが設けられています。そのため撮影現場としてはかなり安全で安心できる環境ですが、ネット上の捕食者たちの振る舞いは全く安全ではありません。

これは被害者である子どもの問題ではなく、加害者である大人の問題

SNS上で少女とコンタクトを取ってくる捕食者たちは様々です。少女に対して卑猥なメッセージを送ってくる者、通話で誘導する者、裸の写真を要求する者、性器の写真を送りつけてくる者。その度に精神科医や性科学者、相談員や弁護士などの専門家が彼らの目的は何か、どういう人物像なのか、何の犯罪に触れているのかなどを分析します。また、こういうケースでは捕食者に誘導された少女側がなぜか責められることが多いのですが、成人男性と子どもという立場や状況からこれは紛れもなく「加害者側の問題」だということが説明されます。本作はこうした実態と分析を通して、SNS上の児童虐待は被害者である子どもの問題ではなく、SNSを運営したり利用したりする大人側、そして加害者である成人男性の問題だということを強く突きつけてくるのです。

作品を見て感じる疑問やその先を考えることもドキュメンタリーの重要な要素

本作を見るとネット上の捕食者たちの実態を知ることができますが、別の疑問や懸念点も浮かんできます。例えば中盤で少女に紳士的に振る舞う優しい男性のエピソードが出てきます。下劣な捕食者たちの相手を続けていた女優や作り手たちは彼の優しさに感動していますが、冷静に考えると「この人も少女相手にコンタクトしてきたんだよな?」という疑問が湧いてきます。他にも本作ではネット上の少女の児童虐待にフォーカスしていますが少年たちも同じように被害を受けていることを忘れてはいけません。この映画では終盤に大きなカタルシスがありますが、実際のSNSではそう簡単には行きません。このように本作から受けたメッセージから様々なことを考えることこそが重要だと感じます。

Text/ビニールタッキー

ビニールタッキー プロフィール

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」管理人。海外の映画が日本で公開される際のおもしろい宣伝を勝手に賞賛するイベント「この映画宣伝がすごい!」を開催。Twitter:@vinyl_tackey

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