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暑い夏に自宅で観たい密室系ホラー2作

7月は「夏のホラー・スリラー映画特集」をテーマに、SYOがピックアップした“密室系”恐怖映画『ビバリウム』『プラットフォーム』の魅力を3ポイントに分けて紹介。

配信とマッチ! 視聴者の環境にあわせて体感レベルが増幅

ビバリウム © Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

いち映画好きとして、ホラーやスリラー作品を観る際に“環境”を重視したいという想いがある。映画館は映像や音の質としては最高だが、「周囲に他者がいる」状態が時に安心感をもたらしてしまう。作品によっては独りで自宅鑑賞することでよりゾクゾクさせられたり、没入できたりするものもあるだろう。
そしてもう一つ、猛暑日で「家から出たくない」という気持ちを逆撫でする内容であれば、より面白いのではないか。そんな観点で選出したのが、『ビバリウム』と『プラットフォーム』。前者は新居の内見に来たカップルが会場から出られなくなる話、後者は巨大な建物に閉じ込められた人々の物語。自宅×夏の掛け合わせで効果を発揮し、涼しい家の中にいることが怖くなる闇深い2本をじっとりと楽しんでいただきたい。

出られない恐怖が、酷暑を乗り切るパワーに変換

プラットフォーム  © BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

ビバリウム』『プラットフォーム』は、瞬間的に驚かす系のホラー/スリラーではない。真綿で首を締めるように、じわじわと逃げ場を奪っていく系の底意地の悪い恐怖が、観る者を待ち受けている。まだ結婚するかも曖昧なカップルがノリで内見デートに行き、出られなくなるどころか謎の「人間の赤ちゃんの形をした“何か”(成長が異常に早い)」を育てさせられる『ビバリウム』、部屋の真ん中に穴があいており、上階の食べ残しが昇降機によって降りてくる監禁生活を強いられる『プラットフォーム』。どちらもストレスフルで「自分だったらこんな生活は嫌だ!」と恐怖し、気づけば「暑くてもいいから外に出たい!」と思う自分を発見するのではないか。そういった意味では、酷暑を乗り切る活力をくれる作品といえるかもしれない。

観る者を逃がさない、“上手憎たらしい”創意工夫の数々

プラットフォーム  © BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

ただこの2作、概要やあらすじだけでは「イライラしちゃいそう」と敬遠してしまう方もいるだろう。しかし心配には及ばない。実に憎らしいことに――様々な創意工夫が凝らしてあり、先が気になって仕方なくなる“面白さ”が詰め込まれているのだ。一つは、謎。「出られない理由は?」「出られなくした何者かの目的は?」「彼らの運命は? ラストはどうなる?」といったものに、闖入者の侵入といった転調、『プラットフォーム』であれば階層が定期的にシャッフルされる仕組みをどう攻略するかといった「予想する楽しさ」「予想を裏切られる快感」がある。そして、映像センスと空間演出。『ビバリウム』はクリーム色のメルヘンチックな色彩が逆説的に悪夢感を強め、『プラットフォーム』はコンクリート打ちっぱなし的な空間を硬質に映し取り「絶望的だがスタイリッシュ」というバランスを創出。視覚的にも観る者の興味を逃がさない。

Text/SYO

© Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film
© BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

SYOプロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆、トークイベント・映画情報番組への出演を行う。2023年公開『ヴィレッジ』ほか藤井道人監督の作品に特別協力。『シン・仮面ライダー』ほか多数のオフィシャルライターを担当。装苑、CREA、sweet、WOWOW等で連載中。TwitterInstagram「syocinema」