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Huling 全記事

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北大言語学サークル Huling の構成員による記事の一覧
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#アイヌ

アイヌ語 輪読会レポ #9

北大言語学サークル所属のもけけです。 本記事は、6月13日に行われた第9回アイヌ語輪読会の学習記です。 第9回では、第25課「時間表現(3)継続と結果」、第26課「不定人称文と受け身文」、第27課「尊敬表現」の内容を扱いました。 学習内容第25課「時間表現(3)継続と結果」 第25課では、アイヌ語の時間表現に関して、主に進行状態を表すと考えられそうな kor an と、主に結果状態を表すと考えられそうな wa an という二つの形式の使い分けを学習しました。 輪読会では

アイヌ語輪読会レポ #8

こんにちは、北大言語学サークルのちょぬです。 こちらの記事は第8回アイヌ語輪読会の学習レポートです。 今回は、第22課「名詞化辞と形式名詞」、第23課「時間表現(1)―時間副詞と過去、完了の助動詞」、第24課「時間表現(2)―意志、未来、推量の表現」の内容を扱いました。 学習内容第22課「名詞化辞と形式名詞」 名詞化辞と形式名詞は、共に前の内容を従属節化する機能を持っています。例えば、名詞化辞 ruwe を用いて次のような文が作れます。 poronno cise an

アイヌ語輪読会レポ #7

こんにちは、北大言語学サークルのfugashiです。本記事は、サークルで行われているアイヌ語輪読会第7回のレポとなっております。過去のレポについてはこちらを参照してください。 第7回では、アイヌ語文法の基礎第19課「普通名詞の人称変化」第20課「位置名詞の人称変化」第21課「連体修飾表現」について学びました。 学習レポ第19課「普通名詞の人称変化」 アイヌ語の普通名詞(位置名詞に対置される概念です)は、「AのB」のような誰かに所属することを表現するとき、しばしば人称変化を

アイヌ語 輪読会レポ #6

北大言語学サークル所属のもけけです。 本記事は、4月16日に行われた第6回アイヌ語輪読会の学習記です。 第6回では、第16課「命令文」、第17課「疑問文」、第18課「主格・目的格人称変化」の内容を扱いました。 学習内容第16課「命令文」 佐藤(2008: 128)によれば、命令文は、動詞の命令形(主格人称接辞の付いていない形)を用いて作られます。また、三人称で無標の形式からは文脈やイントネーションによって区別されます。 なお、他動詞の命令文に関しては、目的格人称接辞が付

アイヌ語輪読会レポ #5

こんにちは、北大言語学サークルの麩菓子です。 アイヌ語輪読会の第5回ということで、今回は「アイヌ語文法の基礎」第13〜15課について扱いました。 学習レポ第13課 単複の区別のある自動詞の主格人称変化 アイヌ語は義務的につく人称接辞の他に動詞語幹の変化(これも接辞として分析できますが)によって単数複数を標示することがあります。その際の動詞の形態についてまとめました。 第14課 目的格人称接辞 目的格を示す人称接辞について学びました。また、他動詞の単数複数は目的語の単数

アイヌ語 輪読会レポ #3

北大言語学サークル所属のもけけです。 本記事は、3月12日に行われた第3回アイヌ語輪読会の学習記です。 第3回では、第7課「副助詞」、第8課「終助詞」、第9課「助動詞」の内容を扱いました。 学習内容第7課「副助詞」 副助詞は、「独立の副詞ではないけれども、他の語の後に置かれて様々な副詞的な意味を付け加える働きをする助詞(佐藤 2008: 61)」とされています。 輪読会では、情報構造の術語としての「主題(theme)」や、格助詞と副助詞の区別などについても確認されました

アイヌ語概説 #4 文の成り立ち

アイヌ語を4回に分けて解説する記事の4本目です。できれば#1、#2、#3を先にお読みください。#4では文の成り立ち、統語論について見ていきます。まず品詞分類やTMAなど文法カテゴリについて、続いて節や句の構造について説明します。 文法カテゴリ品詞分類 アイヌ語の単語は、動詞、名詞、連体詞、副詞、助詞、間投詞に分類されます。 日本語と比較すると、大きな違いの一つは形容詞が存在しないことでしょう。アイヌ語では、日本語でいう形容詞に相当するものは動詞に含まれており、動詞と文法的

アイヌ語概説 #3 単語の成り立ち

アイヌ語を4回に分けて解説していく記事の3つ目です。できればアイヌ語概説 #1、#2を先にお読みいただいてからこちらを読んでください。#3では形態論、すなわち個々の単語の構成について見ていきたいと思います。 さて、#1でも書きましたが、アイヌ語は抱合と膠着を行う言語です。今回はそれぞれどんな要素がどんなルールで抱合され、膠着するのか見ていきます。どうしても専門用語が多くなってしまいますので、適宜記事の終わりにある用語の(大雑把な)解説も参考にしてください。 動詞の数動詞の数

アイヌ語概説 #2 アイヌ語ってどう読むの?

アイヌ語を4回に分けて解説していく記事の2つ目です。できればアイヌ語概説 #1を先にお読みいただいてからこちらを読んでください。#2では発音やアクセントなど音声、音韻論に関わる部分を解説します。 表記と発音ラテン文字表記で用いられる字母とその発音を以下にまとめました(音声はIPAに準拠しています)。音素としてアイヌ語には12の子音と5の母音があります。 字母の一覧とその発音 発音の特徴、注意 有声音/無声音、有気音/無気音および短母音/長母音の区別が一般に認められない

アイヌ語輪読会レポ #2

前回に引き続きアイヌ語の勉強会を行いました。第二回は4〜6課について学習しました。軽い学習内容のまとめと、前回に引き続き気になった内容について取り上げます。 学習内容第4課 人称接辞と人称代名詞 人称の標示方法:人称代名詞と人称接辞 4人称について 主格目的格人称接辞 第5課 後置詞 後置詞を用いた名詞句の作り方 格助詞と後置副詞の違い 第6課 接続助詞 接続助詞及び類似の形式とその語法 アイヌ語4人称の共時的研究アイヌ語の教科書の多くは人称体系に「4人称

アイヌ語概説 #1 アイヌ語ってどんな言語?

今回から4回に分けてアイヌ語について大まかに説明していきます。主な種本は佐藤知己(2008)『アイヌ語文法の基礎』、田村すず子(1997)「アイヌ語(言語学大辞典)」、Bugaeva Anna(2014)「北海道南部のアイヌ語」です。他文献については参考文献に記します。 初回となる今回は、アイヌ語がどんな言語か知っていただくために、基本的な情報について書きたいと思います。 系統現時点で、アイヌ語は系統的に孤立した言語だとされています。語借用関係にある言語は日本語をはじめ複数

アイヌ語輪読会レポ #1

こんにちは、北大言語学サークル所属のちょぬです。 サークルの活動としてアイヌ語の勉強会を行っています。本記事では、学習のまとめを兼ねて勉強会のレポを書き残しておきます。 底本について勉強会の底本には 佐藤知己(2008)『アイヌ語文法の基礎』.大学書林 を使用しています。アイヌ語文法を網羅的に解説した本はあまり多くありません。 アイヌ語の「教科書」と言える文献は他にもあるにはありますが、最も詳しいのはこの本だと考えて課題本を選定しました。 学習レポ底本の内容を要約してここ